コンピューターでは得られない情報を ジュンク堂書店池袋本店

2017年06月07日

ジュンク堂書店池袋本店の田口久美子副店長

ジュンク堂書店池袋本店

5月まで展開されていた「上橋菜穂子書店」

ジュンク堂書店池袋本店の店内

■開店20年
 「書棚を見ていると、日本のあらゆる知識や文化がここにあると思うんです」 
 ジュンク堂書店池袋本店副店長の田口久美子さんは、愛おしそうに店内の書棚を見つめながら、そう語る。
 田口さんは書店員の大ベテラン。大学を卒業後、キデイランド八重洲店と西武百貨店池袋店書籍部(のちのリブロ)を経て、1997年、ジュンク堂書店池袋本店のオープンを機に入社した。
 田口さんは、『書店不屈宣言:わたしたちはへこたれない』(筑摩書房)など、書店と本への愛がたっぷり詰まった著書も多数、執筆している。
 池袋本店の新規開業は、神戸を中心に関西圏で展開していたジュンク堂書店が東京に進出するとあって、大きな話題になった。2001年には増床し、売り場面積は当時、日本最大にもなった。
 「ジュンク堂に入社して驚いたのは、品揃えです。一般書から専門書まで、出版されている本を可能な限り店頭に並べる方針は、それまで書棚は書店員が作るもの、という意識で働いてきた私には新鮮でした。選ぶのはお客様という考え方が徹底していたのです」
 池袋本店が開店した頃は、書籍を特定する国際標準図書番号のISBNがついていない本もあり、店内にはまだ検索機もない時代。客が自分で見つけられない本を探すときは書店員の案内が頼りだった。
 さすがの田口さんたちも何万冊もの本を記憶するのは難しく、書籍目録を片手にフロアーを駆け回ったこともある。すべては「せっかく来てくださったお客様を大切にしたい」という思いからだ。

■「生身の人間の会話から生まれる喜び」も
 ジュンク堂書店の品揃えのよさと、顧客のニーズを一番に思う気持ちは今も変わらない。変わったのは、出版界を取り巻く状況だ。娯楽の多様化やネットの普及で、本離れが進み、書店はどうやって客に足を運んでもらうか、知恵を絞らなければならなくなってきた。
 「ネットで簡単に本が手に入るようになった時代に、書店に来たいと思っていただくには、コンピューターでは得られない情報を提供するしかありません。私たちは、生身の人間が会話することで生まれる喜びもお渡ししなければならないと思っています」
 現在、ジュンク堂の顧客は50〜60代が中心。半数以上が男性だ。専門書を求める客も多い。図書館や専門書店にはあっても、一般書店にはない本まで池袋本店にはあるからだ。
 「私の担当が文芸書ということもあり、他の階にある専門書のフロアーをのぞきに行くと『国史大系』など、よくぞこんな本まで、と思うことがよくあります。お客様にも1冊を探しに来たことで、未知の世界の本とも出会っていただきたい。その面白さを感じていただきたいと思っているんです」
 池袋本店は、ブックフェアやトークショーも積極的に開催しているが、2006年からは、「作家書店」にも取り組んできた。作家に書棚の一角を預け、著書だけでなく、作家が推薦する本を並べるというユニークな企画だ。
 取材にうかがったとき、作家書店の24代目店長を務めていたのは、上橋菜穂子さん。絵本や文化人類学、歴史書、医学書など、上橋さんが好きな本や影響を受けた本が700冊以上並び、上橋さんの等身大パネルやコメントが書かれたポップが飾られていた。
 書棚を眺めていると、『精霊の守り人』(新潮文庫)などの人気作は、上橋さんがこんな本を読んできたから生まれてきたのか、と執筆の舞台裏をのぞいたような気持ちになる。そればかりでなく、上橋さんが薦める本という説得力が加わり、関心のなかったジャンルの本まで読んでみたくなる。

■「メディアとしての書店」
「今、私たちが新しく取り組んでいる企画は『メディアとしての書店フェア』です。池袋本店は8月28日に開店20周年を迎えます。その記念イベントの第一弾として、書店としての役割を捉え直し、発信していこうという企画です」
 フェアは6月1日からスタートした。書店員たちが自分の担当するジャンルから、現代の日本が表現されていると思う3冊を選び出し、コーナーを構成するというものだ。田口さんがイチ押しとして考えている一冊は、『日本会議の研究』(扶桑社新書)という。
 「本にはまだまだ『変える力』があります。『日本会議の研究』のような一冊が社会を動かすきっかけになることもある。本は人。本に形を変えて、書店には大勢の人が息づいているんです。その場所をずっと守っていきたいと思っています」(角田奈穂子)

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