未来に読み継がれる絵本を 未来屋書店えほん大賞

2017年09月25日

未来屋えほん大賞店頭フェア

未来屋書店幕張新都心店

 全国38都道府県で、イオンモールなど各地の大型商業施設を中心に約340店舗を展開する未来屋書店が、今年、「未来屋書店えほん大賞」を創設。第1回大賞に「ノラネコぐんだんそらをとぶ」(工藤ノリコ作 白泉社)が決定した。賞を創設した思いや受賞作決定までの経緯、各方面からの反応などについて、(株)未来屋書店の喜田薫さんに話を聞いた。

■「児童書売り上げ日本一」を背景に

 出版不況と言われるなか、3年連続で売り上げを伸ばしているジャンルがある。小学6年生くらいまでの子どもを対象とした絵本や読み物、いわゆる児童書と呼ばれる分野だ。出版科学研究所の「出版指標年報 2017年版」によると、2016年の児童書の推定販売総額は、前年比7.6%増の868億円。うち40%近くを絵本が占める。
 そんな児童書市場で、売り上げ日本一を誇るのが未来屋書店だ。
 「大型商業施設内という立地の関係からか、さまざまな出版物のなかでも児童書の売り上げが良いと気づいて、力を入れだしたのが10年ほど前です。それならば、児童書を看板にしようと取り組んできました」と喜田さん。
 例えば、2013年、イオンモール幕張新都心店内に未来屋書店が別業態の書店としてオープンした児童書専門店「みらいやのもり」では、コンシェルジュと称して、児童書に詳しい人材を配置し、客からの問い合わせに答えたり、要望に沿ったおすすめ本の紹介ができたりするようにした。これなどは対面販売の良さを活かした取り組みといえるだろう。「みらいやのもり」は、現在、全国に10店舗ほどあり、各店ごとに読み聞かせイベント「本だな探検隊」や、本屋さんの仕事が体験できる「シンデレラ・キッズ」などを開催、家族で楽しめると好評だという。
 こうした背景があって生まれたのが「未来屋書店えほん大賞」だ。

■「児童書に詳しい人材」を活かす

 「賞の創設には、児童書に力を入れようという弊社本部の方針もありましたが、私自身、ちょっと驚いたことがあったんです」と、喜田さん。「白泉社さんの絵本専門誌・月刊『MOE』が絵本屋さん大賞を主催していますが、書店員さんの推薦文に対してもレビュー大賞というものが設けられているんですね。その候補を見ていたら、10作品中4作品が弊社の書店員でした。すごい能力をもった人たちが社内にいるんだなと改めて思いました」
 児童書は、実は専門性の高い分野だ。年間4300点を超える新刊が出版されるうえ(2016年、出版科学研究所・前掲書)、絵本などの場合、初版部数が極端に抑えられていたりするので、そのすべてを把握するのは容易ではないからだ。
 「こうした優れた人材を活かさない手はないと、弊社の書店員たちが選ぶ絵本大賞を企画したのです。また、弊社は児童書で大きくなった書店という認識がありますので、絵本文化の育成に関わるような事業にも取り組んでいきたいと思いました」と喜田さん。

■全国の書店員が参加

 受賞作決定までの流れは、次のようになっている。まず、絵本の主要版元10社と児童書に詳しいスタッフ3名に、それぞれ、直近1年間に出版された絵本の中から推薦作品3点を挙げてもらい、そのうち20点を社内でノミネート作品として選定。さらに、その中から8作品を大賞候補作として、全店に実物と推薦文を送って投票を呼びかけ、大賞が決定した。
 「今回は、60点ほどの推薦がありました。とくに出版社さんがこの企画を大変喜んでくれて、力の入った推薦文を寄せてくれたことに感動しました。初版部数が少なかったりすると、全国の書店にまで配本が行き届かず、残念な思いをすることもあったようです。弊社は全国に店舗があるのが強みですので、通常は配本がないようなところにまで紹介してもらえてうれしかったと聞きました。書店員も、現在、売れてる売れてないにかかわらず、公平な目で投票を行ってくれたようで、バランスのよい結果になったと思います」と喜田さん。
 ノミネート作品20点については、10月末まで店頭に展示してフェアを行うほか、大賞を受賞した作家の作品は、受賞作以外の作品も合わせて、1年間、重点的に販売していく予定だ。第1回大賞受賞者となった工藤ノリコさんとは、現在、「ノラネコ」のキャラクターを使ったグッズ製作などの企画も進んでいるという。
 「クリスマスから年末にかけて、工藤さんのノラネコで店内を埋め尽くし、『ノラネコが未来屋書店をジャックする!』みたいなイベントをやりたいと思っています。えほん大賞のコンセプトは『未来まで読み継がれるベストセラー絵本を育てる』です。この賞から、10年後も20年後も、親子代々読み継がれるような作品が育っていけば、こんなにうれしいことはありません。また、賞自体も、第2回、第3回と、長く続けて大きく育っていくように、努力していきたいと思います」と喜田さん。
 未来屋書店では、新人作家の発掘と育成を支援するため、大阪の梅花女子大学が主催する「あたらしい創作絵本大賞」の協賛もしている。大賞作品は、ひかりのくにから出版され、未来屋書店が独占的に販売するという、おもしろい試みだ。
 「未来にのこしたい絵本がある。絵本でのばしたい未来がある」とは、未来屋書店えほん大賞に冠されたコピーだが、未来屋書店の取り組みは、転換期にあるとされる出版流通業界に示された1つの未来への道かもしれない。(秩父啓子)

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