これからの時代に求められる書店と新聞のつながり

2017年11月29日

ジュンク堂書店の田口久美子さん(右)と朝日新聞社読書編集長の西正之

ジュンク堂書店池袋本店・副店長 田口久美子さん たぐち・くみこ/1971年にキディランド入社、73年に書籍部門・八重洲店に配属となり、書店員としてのキャリアをスタート。76年、西武百貨店書籍販売部門(のちのリブロ)に入社、池袋店店長を経て97年にジュンク堂へ。現在は池袋本店副店長。著書に『書店繁盛記』『書店風雲録』など。

朝日新聞社読書編集長 西正之 にし・まさゆき/1969年生まれ。94年に朝日新聞社入社。盛岡、甲府支局の後、文化部でポピュラー音楽や日韓文化交流を取材。「折々のことば」担当デスクなどを経て、2017年9月から読書編集長。共著に『歴史は生きている』(朝日新聞出版)、『村へ行った人文学』(韓国・タンデ社)。

 書店は、本を読者へダイレクトに届ける窓口です。
 池袋に本店を置き、日本最大級の売り場面積を誇るジュンク堂書店の田口久美子さんは、20年前のオープン当初からジュンク堂書店の書店員として業界と共に歩んで来ました。
 そんな田口さんに朝日新聞社 読書編集長の西正之が、出版や書店の現場や新聞の果たす役割について聞きました。

ディアと書店と街
20年の歩みと変化

西 ジュンク堂書店池袋本店は、1997年に開店してから今年で20周年を迎え、店舗でも色々なキャンペーンやイベントを開催していましたね。
田口 「20周年企画 本をめぐる物語」と冠して様々なことをやってみました。出版社の社長対談や小説を書く講座、読書会から就職セミナー、婚活まで。私は池袋本店のオープンから書店員として働いていますが、20年というと今の大学生が生まれた頃にはもうジュンク堂があるわけですから、感慨深いですね。
西 私が学生の頃から、池袋は「本の街」というイメージがありました。芳林堂や新栄堂、リブロなど大きな本屋があり、本を買いにわざわざ池袋へ行くことも多かったです。
田口 現在は三省堂になっていますが、90年前後はセゾングループが文化発信に力を入れていたこともあり、リブロが果たしてきた役割は大きいと思います。ただ、ジュンク堂がオープンした頃は、この辺りはそれほど買い回りがいいとも言えず、最初は苦戦しました。2001年に増築し、多くの点数を置けるようになり、ようやく「ここにくれば探している本が見つかる」と思ってもらえるようになりました。本を探しに池袋に、そしてジュンク堂に足を運んでくれるお客様を大切にすることをいつも心がけています。
西 インターネットの普及と急速な進歩によって情報伝達の手段やメディアのあり方も大きく変わった20年ですよね。活字メディアの危機が叫ばれて随分たちますが、書店にも変化はありましたか。
田口 書店もですが、出版の状況が大きく変わっていますからね。オープン当初、ジュンク堂の客層は20代の若い層が多かったですが、最近は50〜60代の方が多いです。携帯電話やスマートフォンは街の風景も大きく変えてきたと思います。書店に来て、実際の本を手にとってみて、そこでは買わずにスマートフォンから注文するなんていう人もいるんですよ。私としては目的の本だけをめがけて来るのではなく、本屋という場所をもっと楽しんでほしいと思っています。
西 目移りして他の本に興味が湧いたり、違う分野を探してみたりしたくなる、本屋にはそういう楽しみが尽きませんよね。
田口 そういう意味では書店と新聞って似ていると思っています。自分が読みたいニュースだけではなく、新聞を広げれば興味がない分野やニュースも自然と目に飛び込んで来ます。色々な情報がギュッと詰まっている現場なのだと思います。
西 そんな雑多な情報の中にある出版広告や書評は、書店にどんな影響を与えているのでしょうか。
田口 「この本ありますか?」と新聞の切り抜きを持って来るお客様は少なくありません。読者と書店をダイレクトにつなぐものであることを実感しています。

店と本、新聞の
新たなつながり方を探る

田口 最近の傾向として、特に若い人たちの間では、ツイッターも本の販売促進に大きな影響を与えています。有名人や専門家、その道の権威と言われる人の意見よりも、自分が好きでフォローしている人や直接の知り合いのつぶやきを信じるという風潮があるのでしょう。
西 若い世代にはSNSも主な情報源の一つですね。
田口 書店としては本が売れることにつながるのであれば、あっという間に拡散されるツイッターのような媒体もありがたいと思っています。そればかりを信頼してしまうのはどうかと思うこともありますが。一方で新聞書評を書く方はそのジャンルの専門家であったり、同業の作家であったりするので、プロの意見として本の売り方のアプローチを考える上で大いに参考になります。読者と本をつなぐ方法として様々な角度から本の魅力を伝えていきたいです。
西 今年は、カズオ・イシグロさんがノーベル文学賞を受賞し、大きな話題となりました。文学賞のシーズンは、やはり書店はにぎわうのでしょうか。
田口 何か話題があるとお客様はもちろん、書店員たちもそわそわ、ワクワクします。今年はノーベル文学賞に加えて、ノーベル物理学賞に「重力波」を捉えることに貢献したアメリカの研究者が選ばれ、『重力波は歌う』(早川書房)も話題です。カズオ・イシグロさんの作品もその多くが早川書房から出版されているので、増刷で大騒ぎかもしれません。
西 芥川賞や直木賞、三島由紀夫賞や小林秀雄賞など、様々な文学賞がありますね。
田口 又吉直樹さんの『火花』(文藝春秋社)の芥川賞受賞は、話題性も別格でした。「本が売れる」実感が大きいのは「本屋大賞」です。本屋大賞に選ばれる本はエンターテインメント性が高く、読みやすいというのが大きな理由だと思います。色々な賞のタイミングに、新聞記事や出版広告などで、メディアがもっと手を組んで新たなことを仕掛けていけば、より注目度が高まるかもしれませんね。
西 そうですね。メディア全体でもっと本を読む楽しみやその魅力を伝えていかないといけませんね。
田口 一つひとつの書店は決して大きくはありませんが、読者と著者をつなぐ一番身近なメディアでありたいと思っています。著者に会いたい、話を聞きたいと書店に足を運んでくれる読者の期待に応えられるように、本を売るだけではなく、色々なつながり、可能性を模索していきたいと考えています。

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