「煮卵の作り方」 光文社新書から料理本がヒット

2017年04月19日

フェルト生地を用いた手作りPOP=くまざわ書店ルミネ池袋店

精文館書店豊橋本店のPOP

樋口健さん

■「手抜き料理」レシピ集
 カバーの今にもとろけそうな卵の黄身がインパクト抜群の光文社新書『世界一美味しい煮卵の作り方』(はらぺこグリズリー著)。ページを開き、その煮卵の作り方を見てみると、水を沸騰させて卵を6分間ゆで、氷水に3分間浸した後、殻をむいて麺つゆに半日漬け込む、とある。
 これを見たら、「えっ、そんなに簡単に作れるの?」と、誰だって試してみたくなるだろう。かく言う筆者もさっそく作ってみた。すると、ホントに写真そのままの煮卵ができた。感激!うれしい!それにおいしい!――これがこの本の大きな魅力だ。ほかにも、ちょっと作ってみたくなる料理が並んでいる。全100レシピのうち、半数以上が材料費100円以下、帯には「100%作れる!」とある。
 著者は、「手抜き料理研究家」を名乗り、月間70万ページビューを誇る人気ブロガー。「安い、旨い、手軽」をコンセプトに、一人暮らしの食卓を楽しく豊かにする料理を紹介している。その中から厳選したレシピを収載したのが同書だが、2017年2月15日の発売から1週間足らずで重版となり、2カ月たった現在、発行部数8万部を超すヒットとなった。

■新書の新機軸を求めて
 この本の企画・編集を担当したのは、新書編集部の樋口健さん(37)。光文社の人気女性誌「HERS」「JJ」などを長年担当し、現在の部署に移って4年目のベテラン編集者だ。硬軟取り混ぜて年間10冊ほどの新書を企画・編集してきたが、料理のレシピ本は初めてだという。オールカラーで、オリジナルカバーは光文社新書のなかでも異色だ。
 「編集部の方針として、何か光文社新書の存在感を打ち出せるようなものを出したいということがあって、料理本も試してみる価値があるのではないかと企画はわりとすんなり通りました。弊社の新書編集部は、編集者がおのおのやりたいことをやらせてくれる雰囲気があるんです」と、樋口さん。
 著者とは、どのようにして出会ったのだろうか。
 「以前からブログを拝見していて、どんな人が運営しているのかと関心をもっていたんです。そうしたところに、編集プロダクションの方から紹介を受けてお会いしました」

■著者の熱意を生かす
 ただ、著者も本を出すのが初めてなら、樋口さんも料理本を担当するのは初めての経験。「試行錯誤の連続でしたね」と、樋口さん。その苦心の1つが本のタイトルだ。
 「当初は、副題になっている『家メシ食堂』というようなタイトルで進めていたのですが、編集部内でも『あの煮卵の本どうした?』とか、とにかく『煮卵』が話題になるんです。ブログでも一番人気のレシピということで、『煮卵』を前面に出すことにしました」
 もう一つ、編集にあたって肝に銘じたことがある。それは、あまり編集者が手を加えすぎないようにすることだ。
 「著者の『絶対に役に立つ本を作りたい』という熱意をそがないように、やりたいようにやってもらおうと思いました。ブログの勢いある感じが魅力なので、文字の組み方や写真のレイアウトも、それが生きるように見せ方を工夫しました」と、樋口さん。

■多角的な展開で読者層が拡大
 こうした樋口さんの読みは、良い意味で、半分当たり、半分外れた。同書が発売になると、予想通り「煮卵」は大きな反響を呼び、アマゾンでは完売、新書の売り上げ1位を獲得した。だが、樋口さんの予想をはるかに超えたのは、リアルな書店からの反応だったという。
 「書店さんがものすごく推してくれて、実際に煮卵を作った話をSNSにあげてくれたり、POPを作って新書と料理本の両方のコーナーに置いてくれたりしたんです。通常の新書では考えられないことです」と樋口さん。
 こうした動きを見て、販売部もレジ横に置く販売台を作製。売り場は、さらにレジ横へと広がった。それにつれて読者層も拡大した。
 「売れ方が全然違ってきました」と、樋口さん。通常、新書の読者は50代以上の男性が主体だが、この本に限っては、20~30代の若い世代が圧倒に多いという。男女もほぼ半々で、なかには、この春から一人暮らしをする息子や娘に持たせるために買ったという親世代もいる。
 「カップ麺やコンビニ弁当の食卓でも、煮卵1つ、キャベツのサラダ1品を加えるだけで楽しくなるよ、そこから始めよう、そんなメッセージが込められた本だと思うんですね。本が売れない時代と言われて久しいですが、やはり力のある本、役に立つ本は売れるんだと、あらためて勇気づけられた思いがします」
 これからも新書の可能性を広げられるような、新しい切り口の企画を探っていきたいという。(秩父啓子)

関連記事

ページトップへ戻る