社員が接客 文芸社が「コメダ珈琲店」を出店

2017年05月08日

コメダ珈琲店新宿御苑前店

血液型の「自分の説明書」シリーズも

自社刊行物が並ぶ書棚

嶋田裕美子さん

文芸社ビルに入るコメダ珈琲店新宿御苑前店

■自社刊行物発信の場に

 東京・新宿御苑のすぐ近くに3月20日、人気のコーヒーチェーン店「コメダ珈琲店」がオープンした。木目を基調とした温かな雰囲気、ゆったりとくつろげるソファ、そしてこだわりのドリンクやフードは変わらないが、他店とは違うことが一つある。店内に本棚があり、そこに並ぶ書籍を客は自由に読むことができるのだ。
 実はこの店が入っているのは、自費出版から書店流通までをサポートする出版社、文芸社のビル。このカフェは、文芸社が「コメダ珈琲店」とフランチャイズ契約をして展開するブックカフェだ。書店が運営するケースは多いが、出版社が自社刊行物の発信の場として手がけるブックカフェはほとんど前例がない。
 「出版業界全体の売り上げが落ちている中、自費出版の無名作家の本は書店に並んでも手に取っていただくのが難しいのが現状です。ならばその場を作ろうと考えたのがブックカフェでした」
 そう話すのは、文芸社経営企画室の嶋田裕美子さん。出版社にとって、しかし、カフェ事業は門外漢。そこでコメダ珈琲店にフランチャイズを申し出た。
 「本を読みながら、ゆっくりとカフェでの時間を楽しんでいただきたい。回転を重視するカフェと違い、長時間くつろいでも腰が痛くならない快適なソファのなど、ゆったりとした空間が人気のコメダ珈琲店は、私たちが目指すカフェの形に最もふさわしいと考えました」
 ビル1Fにあった著者との応接スペースをリノベーションし、コメダ珈琲店初のブックカフェが誕生した。

■ドリンクと一緒に本もすすめる

 実は嶋田さん、このコメダ珈琲店新宿御苑前店の責任者を務める。文芸社では秘書や受付業務を担当してきたが、ブックカフェの立ち上げともにこのポストについた。このブックカフェは、嶋田さんら文芸社の社員6人が専従として切り盛りし、販売部門などの社員も空き時間に応援部隊として店頭や厨房に立っている。
 カフェ運営のための人材を採用せず、社員で運営するのはなぜか?
 「店内にある書籍について聞かれたらきちんと答えられる、あるいは、ドリンクをお出ししたときに本をオススメする、そうした『本のソムリエ』のような役目ができれば。そんな思いから、社員自らがカフェに立つことになったのです」(嶋田さん)
 接客はもちろん、コーヒーをはじめとするドリンクや、コメダ珈琲店人気のみそカツサンドなどフードの調理法も研修で学び、開店に臨んだ。しかし、オープン当初はちょっとした混乱が起きたという。
 「桜の時期と重なり、新宿御苑でお花見をした方たちが帰り道に大挙して来店されて……。私たちにとってカフェ事業は初めての試みだったので、ゆっくりひっそりスタートしたかったのですが、蓋を開けた途端、てんてこ舞いでした(笑)」と嶋田さん。
 しかし、社員の応援や連携もあり乗り切ることができた。すると、予期しなかった効果が。「社員同士のコミュニケーションが活発になり、社内の士気も上がって雰囲気がよくなりました」
 カフェには少しずつだがリピーターも増えてきた。朝晩の時間帯に本を読むのを楽しみに来店する常連客や、店内はwifi完備で全席に電源があるので、店内のビジネス書を参考にしながらPCで書類を作成するビジネスパーソンも。同社出版のヒット作の血液型の「自分の説明書」シリーズはカフェでも人気だ。カップルがそれぞれ自分の血液型の本を読み、そのうち「当たってる?」「当たってるね!」と会話を弾ませる、なんていうシーンも。飲み物が来るまでの時間に、置いてある絵本を子どもに読み聞かせしている母親の姿には、「うれしくて涙が出そうになりました」と嶋田さん。そして、こう続けた。
 「今の季節にはこの本、こんな気分のときはあの本、といった具合に、そのときどきにふさわしい本をきめ細かにおすすめできたら。正直、これまではそんな余裕もありませんでしたが、一歩一歩取り組んでいきたいですね」
 店内の書籍を「買いたい」という客もいるが、カフェで販売はせず、書店での購入を案内する。カフェの収益は書店への報奨金などにあてることを検討。また、他社刊行でも魅力ある自費出版の作品は置いていくことも考えている。
 「出版社、書店など業界全体として、紙の本の魅力、まだまだ隠れた名作の存在を発信していきたい。このカフェが一つの起点になれれば、と思っています」
 そう言って、嶋田さんはとびきりの笑顔を見せた。(中津海麻子)

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