「時代」と「女性」を映して anan編集長・北脇朝子さん

2017年05月11日

「anan」編集長・北脇朝子さん

「anan」

「にゃんこ♥LOVE」特集の5月17日号

「美脚・美尻」特集の5月3-10号

■読者コミュニティーがない雑誌
 もはや多くの説明は不要だろう。マガジンハウス発行の女性誌「anan」。1970年の創刊以来、ファッション、ライフスタイル、エンタメ、恋愛や性まで、幅広い切り口で、「時代」と、その時代を生きる「女性」を映し出してきた。
 北脇朝子さんが「Hanako WEST」「Hanako」編集長を経て同誌編集長になったのは3年前。大ヒット企画を次々と打ち出してきた。ところが、口をついて出たのは意外な言葉だった。
 「編集長になったころは、ananがどういう雑誌か正直よくわからなかったんです」
 雑誌は、年齢や属性などターゲットとなる読者層を想定し、コミュニティーを作って読者を囲い込んでいくのが定石だ。しかし、マガジンハウスの多くの雑誌はそれをしない。中でもananは徹底的な特集主義で、ターゲットはその特集内容に興味がある人、共感する人すべて。「年間約50冊を発行しますが、読者は特集ごとに違うといっても過言ではない。そういう読者に、どんなテーマをどんな切り口、見せ方で伝えるべきなのか。それがわからなかったし、今も常に悩んでいます(笑)」。そして、こう続けた。
 「リピーターやコミュニティーがないのは雑誌を作る上では苦労もありますが、逆に言えばそれがananらしさであり、最大の強み。創刊した70年代とは時代が大きく様変わりし、女性の生き方や価値観は多様化したけれど、それでも支持してもらえるのは、『時代』と『女性』という軸足が創刊から今までブレていないから。3年やってきて改めて気づきました」

■「何かをものすごく好きな人」に注目
 問われるのは、トレンドやブームの種を見つけ、見極める「眼力」だ。北脇さんは、今を生きる女性たちの置かれた状況やムードは捉えながらも、彼女たちの声で特集のテーマを決めることはほとんどないという。北脇さんの流儀は、何かを「ものすごく好き」という人たちに注目すること。「私自身がオタク気質で昔から色んなものにハマってきたので、人が何かに夢中になり、その熱がブームを起こしていく感じがなんとなくわかる。その熱と、季節感やトレンドなどを鑑みながらテーマを決めていく。歴代の編集長はどうかはわかりませんが、それが私のやり方ですね」
 その感覚が見事当たったのが2015年6月の猫特集「 にゃんこ♥LOVE」。「猫好きが多いことはわかっていましたが、ananがまるごと1冊で特集することには社内で論議があり、私自身迷いがあった」。しかし、超猫好きの編集部員が「絶対にやりたい! 一人でもやる!」と訴えてきた。その熱に何かを感じ、北脇さんはGOサインを出す。編集作業が進む中も迷いは払拭できなかったが、刷り出しをしたときに編集部員たちが一斉に集まってきて、若手からベテランまでが「かわいい~!」とニコニコ笑っている様子を見て、「売れるかどうかはわからないけど、ああ、やってよかったなって」。
 読者に受け入れられないかもという不安は覆された。発売したその日に半分以上の部数を売りあげ、数日後には完売。さらにananを追う形でテレビが猫を取り上げ、ほかの雑誌では似たような特集が次々に組まれ、SNSが猫、猫、猫で沸き上がった。
 「猫がブームになる土壌はおそらくあったと思いますが、ananが特集したことで世間がそれをブームとして認識し、加速し、社会現象までになった。ananという雑誌にはそういう役割とパワーがある」と北脇さん。「おそ松さんがやってきた‼」(16年5月)では、赤塚不二夫さんの人気マンガ「おそ松くん」の六つ子たちが20歳になった姿を描いたアニメ「おそ松さん」をフィーチャー。一部ではすでに流行していたものの、anan史上初、アニメキャラが表紙を飾るという大胆な手法も相まって、すぐさまムック版を刊行するほど話題に。人気アニメがポップカルチャーとしての地位を確立したきっかけとなった。
 「雑誌が売れない時代でも、読者の心をつかみさえすれば売れる。それをananは証明していると自負していますし、だからこそ生き残れているんだと思っています」
 旬の人を「ananらしく」発信するのも、この雑誌の得意技だ。5月3日・10日合併号(4月28日発売)では、毎年恒例の人気企画「麗しの美脚・美尻」で、男性ファンはもちろん、女性からも高い支持を得るアイドル、乃木坂46の白石麻衣さんが表紙とグラビアに登場。白石さんの美ボディを目標としたエクササイズなどを紹介した。続く5月17日号(同10日発売)は、もはや鉄板企画の「春の にゃんこLOVE」。猫ブームが1周も2周も回ったところで、火付け役がどんな誌面を見せてくれるのか。猫好きならずとも気になるところだ。
 「心がけているのは、それを大好きな人に満足してもらえて、かつ、それ以外の読者にも魅力や楽しみ方を親切に丁寧に伝えること」と北脇さん。そして、こう言葉を結んだ。
 「変化する時代に、『ananがananたる』ためにはどうしたらいいか。それを常に考えながら、読者の方々の心をつかむ特集をこれからもお届けしていきます」
(中津海麻子)

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