簡単料理を論理的に ミリオンセラーの『つくおき』シリーズ

2017年06月19日

『つくおき』編集者の北川編子さん

3冊合わせて、100万部に達する勢いの『つくおき』シリーズ


 今、料理本は、「時短」「簡単」「おいしい」がキーワード。なかでも、1週間分のおかずをまとめて作る「作り置き料理本」は一大ブームになっている。そのきっかけを作ったのが、『つくおき』(nozomi著・光文社刊)だ。『つくおき』は、第3回料理レシピ本大賞「料理部門」で大賞を受賞。続編の『もっとつくおき』に続き、5月20日に発売された第3弾の『つくおき3』も、すでに10万部を突破。シリーズ3冊合わせて、100万部を突破する勢いだ。なぜ『つくおき』が、これほどまで読者の熱い支持を集めたのだろう。その秘密をうかがいに、編集者の光文社ノンフィクション編集部デスクの北川編子さんをたずねた。

■日々の生活から生まれたレシピ

 ————『つくおき』は、どのようなきっかけから生まれたのでしょうか。
 北川 きっかけは、著者のnozomiさんが運営しているレシピサイト「つくおき」(https://cookien.com)です。nozomiさんは、当時、ご主人と2人暮らし。会社員として働きながら、ご自身が実践している作り置きレシピを公開していたんです。
 そのサイトがとても便利で、私も自分で料理を作るときの参考にしていましたし、作り置きの方法がユニークで、「ぜひ本にしてみたい」と思いました。最初にnozomiさんにお目にかかったのは、2014年の夏頃だったと思います。

 ————料理をまとめて作っておく、というのは、家庭料理としてはオーソドックスな考え方ですが、nozomiさんのレシピは、従来のものとは違っていたんですね。
 北川 ええ。じつは、nozomiさんのサイトを私に教えてくれたのは、ふだん料理をしない男性の友人でした。そんな男性も参考にしたくなるくらい、分かりやすく、システマティックに1週間分のレシピが展開されていたんです。

 ————『つくおき』シリーズは、まず1週間分の料理が1枚の写真に収められ、食材のリストがあり、時間内にどう調理するかのタイムスケジュールがあり、そして作り方が紹介されています。使用する保存容器や買い物の仕方、食べ方などまで細かく解説してあり、料理をしたことがない人でも、順を追っていけば、ちゃんと作れる内容になっていますよね。
 北川 nozomiさんが日々の生活から考え出したレシピなので、実践的ですし、リアリティーがあります。とても読者に近いところにあるレシピだと思います。しかも、SEというお仕事柄もあると思うのですが、レシピが具体的で論理的です。
 たとえば、ブロッコリーの塩ゆでの仕方も、ブロッコリーの茎を下にしてゆでる、とか、冷ますときは花蕾を上にするとか、日持ちさせるコツを詳細に説明しています。なぜブロッコリーを買うのかという理由まで書いてあるので、納得感が違うんですよね。
 『つくおき』の制作で、nozomiさんが大切にしていたのが、「自分の場合は」ということでした。料理の専門家ではないので、「料理を教える」のではなく、ご自身が実践している方法を包み隠さず、ありのまま公開するというスタンスにこだわっていらっしゃいました。

■ベテラン主婦からも共感

 ————だからこそ、読者の共感を得たんですね。
 北川 そうだと思います。発売前は、あまり料理をしたことがない若い方が買って下さるかなと思っていたのですが、発売してみたら、どの年代にもまんべんなく売れていて、私たちのほうが驚きました。ベテランの主婦の方たちからも、「難しく考えず、こんなやり方で料理を作っていいんですね」「おかげで自分の時間ができました」という声もたくさん寄せられて、うれしかったです。

 ————レシピサイトの内容を紙の本として編集するのは、ご苦労もあったのでないかと思うのですが……。
 北川 nozomiさんは、つくおきの手順やレシピにご自分なりのルールがあって、世界観がしっかりしていたので、内容についての心配はありませんでした。料理写真も多くがnozomiさんが撮影されたものです。
 ただ、ウェブと紙では、情報の展開の仕方が違います。ウェブは上から下に情報が流れますが、紙は左から右、または右から左に情報が並びます。書籍にはページをめくったり、ある程度、情報をまとめて章立てしたりするという特徴もあります。
 本として、どのように分かりやすく、nozomiさんのつくおきテクニックを紹介していくか、ページ構成には時間をかけました。

■「ウェブ的な見せ方」から学ぶ

 ————北川さんは、実用書の編集者として数多くの本を手がけていらっしゃいますが、これまでの料理本とは違うところはありましたか。
 北川 そうですね。料理本に限らず、実用書では、同じことは何度も繰り返さないという暗黙のルールがあります。たとえば、「野菜をゆでたら、よく水切りする」というポイントを紹介したら、その後のページでは、同じように野菜をゆでるレシピが登場しても、水切りのことまでは細かく説明しません。でも、『つくおき』では、そういったポイントが何度も登場します。
 編集者は、1冊の本を通しての「流れ」を重視するのですが、nozomiさんは、パッと本を開いたとき、どこから読んでも分かることを重視されました。ウェブ的な見せ方の発想と言っていいかもしれません。その視点の違いに、「そういう情報の見せ方もあるのか」と、私自身も勉強になりました。

 ————5月に第3弾の『つくおき3』が発売され、好評ですが、シリーズ化にあたっては、どのように内容を変化させたのでしょう。
 北川 1冊目を作っているときから、2冊目の構想はありました。2冊目は、最初の本で伝えきれなかった細かい部分まで紹介しようという意図で作っています。
 nozomiさんは、レシピをエクセルですべて管理しているんですね。『もっとつくおき』では、献立をどう組み立てているのか、考え方から公開することで、nozomiさん流のつくおきを、読者が自分の生活に合わせて実践できるように工夫しました。ですから、『つくおき』と『もっとつくおき』を合わせて読んでいただくと、つくおきがほぼマスターできると思います。
 最新刊の『つくおき3』は、nozomiさんご夫婦にお子さんが産まれ、生活が変わってきたことがベースになっています。独身時代から結婚して大人2人の生活、そしてお子さんがいる生活と、ライフスタイルが変われば、つくおきの仕方も変わってきます。そんなnozomiさんが体験してきた生活の変化を盛り込むことで、一人暮らしの方やお子さんがいる方にも参考になる内容になっていると思います。

 ————『つくおき』は、作り置き料理本のブームを作るきっかけにもなりましたが、ベストセラーになることは予想されていましたか。
 北川 売れるとは思っていたのですが、100万部に達するようなベストセラーになるとは、さすがに予想していなかったので、うれしいですし、編集者冥利につきると思っています。これからも『つくおき』シリーズをきっかけに、簡単でおいしい料理を楽しんでくださる方がもっと増えてくれれば、と願っています。

 ————これから北川さんは、どんな本を編集していきたいと思っていらっしゃいますか。
 北川 「暮らしが楽になる本」を作っていきたいです。『つくおき』も読者の方からも、「料理が楽になった」「楽しくなった」という声をたくさんいただいて、作ってよかったと心から思いました。楽になると、心がほっとしますよね。そんな人に”やさしい”本を作っていきたいと思っています。(角田奈穂子)

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