ビジュアル満載で8万部 大修館書店『新全訳古語辞典』

2017年06月23日

新全訳古語辞典」を編集した正木千恵さん(左)と尾崎祐介さん

「新全訳古語辞典」の内容見本

 「ビジュアル的でわかりやすい」「内容がおもしろい」「楽しく画期的」――今、全国の高校国語科の教師たちから、高く評価されている一冊の辞典がある。
 大修館書店が2017年1月に発刊した『新全訳古語辞典』だ。
 発行部数5万部からスタートしたのが、数カ月後に3万部を増刷、計8万部のヒットに。ヒットの理由は、ページをめくればピンとくるだろう。
 イラストによるわかりやすい解説、重要語に配された「四季」「人物」「住まい」といったアイコン、間違えやすい古語につく「これで覚える!」のキャッチコピーなど、これまでの古語辞典にはなかった視覚的な演出が満載。その一方で、助動詞や敬語の使い方など、古文を理解するうえで大切な文法については大きく取り上げ、図や表を用いて丁寧に説明する、学びの「メリハリ」がついている。
 「小難しい」イメージは一切ない、これが『新全訳古語辞典』の最大の魅力だ。
 これほど大胆な“改革”を行った背景には、編集者たちの強い思いがあったという。
 辞書編集を担当して約20年の大修館書店 編集第一部次長の正木千恵さんは、次のように話す。

■「学びたくなる古語辞典」目指す

 「今の中高生は古文が苦手という生徒が非常に多く、辞書を買っても使いこなせていません。そうした現状を知り、本来役に立つべき辞書のあり方に危機感を抱くようになりました。生徒たちが興味を持って楽しく学べるような、まったく新しい古語辞典を作りたかったんです」
 同社の古語辞典編纂は1980年代後半から始まった。研究を重ね、1997年には『古語林』を、2001年には『大修館全訳古語辞典』を発行した実績がある。
 「こうした成果を礎に、内容の確かさを保ちつつ、いかに生徒たちが積極的に『学びたい』と思う辞典にできるかが、当初の課題でした」(正木さん)
 今回初めて辞典の編集メンバーに入った教科書編集畑の尾崎祐介さんも、こう振り返る。
「今は教科書も学習参考書もどんどんビジュアル化が進んでいます。生徒たちはそれに慣れている。辞典も変わっていかなければと思いました」
 知の結集として伝統ある辞典に、どう時代のニーズを反映させるか――『新全訳古語辞典』は、編集者たちにとって大きなチャレンジだったのだ。
 尾崎さんは書店に通い、「棚に並ぶ学習参考書を全部見て」、どんな解説の仕方がトレンドなのか、表現には何が工夫されているのか等、ページの「わかりやすさ」「読みやすさ」を徹底的に調査した。
 そうした努力から出た発想のひとつが、古典でおなじみの弥次・喜多と「東海道五十三次を歩く」という趣向で古典コラムを読み進んでいく「古語ウォーキング事典」というページに実を結んでいる。このほか、百人一首や俳句を読み解く「名歌名句事典」、古典文学に出てくる人物等をマップで表した「古典文学事典」といった付録も収録。
 さらにはQRコードからインターネットにつながり、スマートフォンやPCで講師による古語解説を見ることもできる。どれも「見て、聞いて、もっと古文を好きになって」という作り手のメッセージがこもったアイデアだ。
 だが、アイデアだけではここまで売れない。仕様もガラリと変えた。
 本文より大きな表紙が一般的だった造本をコンパクトな並製本にし、明朝体が主だった活字も、太く読みやすいゴシック体を随所に採用することで、読みやすさを追求した。また、電子辞書とは一味違う“紙の良さ”を引き出した点も見逃せない。
 「受験対策に十分な約17600語を収録しましたが、重要な古語にアイコンをつけようとすると2行必要になるので、ページ数との兼ね合いで“最も重要な古語”にしかつけませんでした。ですからページを開くだけで『入試に出そうな古語』を効率的に覚えることができる。制約のある紙の辞典ならではの利点を生かせたと感じています」(正木さん)

■中高年にも好評

 こうしてとことん10代の好奇心を刺激する学習辞典に仕上がったわけだが、予想以上の反響も起きている。中高年にもウケているのだ。
 「年を重ねるにつれて古文が読みたくなった」「趣味で和歌をたしなんでいる」「社会人大学で古典を習っているから」など、『新全訳古語辞典』を支持する理由は十人十色だが、内容は本格的でも徹底的に読みやすくした工夫が、世代を超えて古典好きの中高年に響いたことは想像に難くない。
 「和歌には恋愛の機微を読んだものが多く、大人になってからのほうが深く理解できるのかもしれませんね」(正木さん)
 筆者も百人一首のページをめくっていると、過ぎ去りし高校時代、古文の授業で男性教師が繰り返し読んでいた歌を見つけた。
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わびぬれば 今はた同じ 難波なる
みをつくしても 逢はむとぞ思ふ 
元良親王
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 当時は掛詞の勉強としてノートに写していただけだが、今は読み手の心情にぐっとくる。
 中高生も、中高年も「調べる」だけでなく「読む」。進化した辞典が持つ可能性は、計り知れない。(吉岡秀子)

→週刊朝日・ベストセラー解読「新全訳古語辞典」
http://book.asahi.com/reviews/column/2017050200002.html

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