「思いやりや想像力大切に」 『転んでも、大丈夫』義肢装具士の臼井さん講演

2017年08月28日

臼井二美男さん

臼井二美男さん(左)と小松茉奈実さん(中央)

臼井二美男さん(右)と福田柚稀くん

義肢を手に取る臼井二美男さん

 ポプラ社は創業70周年を記念し、著者による講演会を開催している。夏休みも終わりに近づいた8月19日、東京・神保町の「ブックハウスギャラリー」であった講演会でマイクを握ったのは、『転んでも、大丈夫』の著者で、日本で初めてスポーツ用の義足を作った義肢装具士の臼井二美男さん。会場には、親子連れや義足を利用している人など35人が足を運んだ。

■「走りたい」気持ちを知り挑戦

 臼井さんが義足作りの世界に飛び込んだのは、今から約30年前。当時日本には、生活用の義足しかなかったという。
 「今よりとても重くて、つけるのも大変だったんだ」
 そんな中、スポーツ用の義足の存在を知る。アメリカやカナダ、ドイツの選手が義足でパラリンピックに出場していたのだ。調べたところ、日本にはまだスポーツ用義足はなかった。義足の若者たちに「走ってみたい?」とたずねると、「走りたい。でもどうやっていいかわからない」。彼らの思いを知り、臼井さんはスポーツ用義足へのチャレンジを決める。
 アメリカから部品を取り寄せ、義足の人につけてもらうと、身体能力の高い10代、20代の若い人たちは思いのほか上手に走ることができた。幼いころに足を切断し、十数年ぶりに走れたことに感激し涙を見せる人も。
 「みんなとても喜んでくれた。すると気持ちが明るくなり、どんどん前向きにたくましくなっていく。もっともっとそういう人を増やしたい――。その思いでこれまで義足作りを続けてきました」
 2000年のシドニー・パラリンピック以降、臼井さんの義足で活躍する日本人選手は大会ごとに増えている。が、当初は困難も少なくなかったと告白する。
 「僕が作った義足でアメリカのトレーニングに参加した選手から、渡米したその日に『義足が折れちゃって練習できない』と電話がかかってきた。グラウンドの気温が40度以上になり、部品が熱くなって体重をかけた途端グニャッと曲がってしまったんです。経験が足りず、どのぐらいの強度にすべきなのかをわかっていなかった」
 そうした失敗と勉強を重ねながら、臼井さんは一人ひとりに合った、実力を最大限に発揮できる義足を手がけてきた。
 講演会には、義足ランナーとして活躍する小松茉奈実さん(大学3年)と福田柚稀くん(小6)がゲスト出演。二人とも病気で片足を切断した。小松さんは小2のときに骨肉腫で左足の太ももから先を失った。退院後から義足は使っていたが、高校進学を前に臼井さんのもとを訪ねる。「制服のスカートを短くしたくて、きれいな義足がほしかったんです」
 臼井さんは会うたびに「陸上チームがあるからおいでよ」と声をかけてくれたという。陸上チームとは、臼井さんが始めた義足ランナーの練習会「ヘルスエンジェルス(現・スタートラインTokyo)」だ。しかし、小松さんは参加に躊躇した。「走ることを諦めていた私には、戸惑いの気持ちの方が強かった」
 臼井さんが熱心に誘ったのには理由があった。「走ることで全身のバランスがよくなり、筋力がついて歩くのも上手になる。茉奈実ちゃんが学校に行ったりするときもきっと役に立つと思ったんです」
 その後練習会に参加した小松さんは、選手として陸上の大会に出るようになっただけでなく、趣味のスノーボード遊びや海外旅行にもどんどん出かけていくように。
 「陸上を始めてから、それまで諦めていたことが『できる』という自信に繫がり、色んなことに挑戦するようになった。今はバイトで8時間の立ち仕事もこなしています」とニッコリ。

■「スポーツ用義足にも補助を」

 会場からは、臼井さんに「義肢装具士に必要なことは?」という質問が飛んだ。「一人ひとりにぴったり合った義足を作るのはもちろん、この人が元気に走れるかな、プールで泳げるかな、あるいはトイレなどでも邪魔にならないようにしようとか、思いやりや想像力を持つことが大切ですね」 最近、本を読んだ小学生から「義肢装具士になりたい」という手紙が届いたことに触れ、同じ小学生の柚稀くんにも「将来やりたい仕事はあるの?」と尋ねた。すると、「ある。義肢装具士」とキッパリ。「それは初耳だ!」と臼井さんは驚き、笑顔が弾けた。
 2020年には東京でパラリンピックが開催される。「パラリンピックで活躍するアスリートの姿を通じ、多くの人が障害について知ったり考えたりするきっかけになれば」と臼井さん。さらに、50万~100万円と高額なスポーツ用義足には補助がないことを説明し、「なんとか3年のうちに制度が整ってほしい」と力を込めた。
 千葉県から母と一緒に参加した斉藤詩歌さん(小5)は、「義足の値段が高くて驚きました」。そして、実際に臼井さんが作った義足に触れ「すごく軽い。走りやすそう!」と目を輝かせた。
 最後は著書のサイン会。柚稀くんもペンを片手に飛び入り参加し、来場者との交流を楽しんでいた。(文・写真 中津海麻子)

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