2018年宇宙の旅。ただし、現在一千億分の八。 小野雅裕「宇宙に命はあるのか」著者に聞く

2018年03月01日

 地球外生命はいるのか。人類はどこから来たのか。誰もが一度は思えど、大抵の場合妄想として消えて行ってしまうこの疑問に、NASAの中核研究機関JPLの現役職員である著者が、真っ向から向かい合った新書「宇宙に命があるのか-人生が旅した一千億分の八(SB新書)」が好調だ。著者に本書への想いを聞いた。
 最前線の研究者の著作と聞くと身構えそうだが、その心配は無用だ。第1章・第2章では作家ジュール・ベルヌが見た夢を導入にして「宇宙時代のファウスト」たるフォン・ブラウン博士など、宇宙を夢見た先人たちの物語がドラマチックに描かれ、読者は一気に宇宙開発の物語へ引き込まれる。文学賞の受賞経験もあり「母方の祖父の影響で小説を読むのが好きで、書くことが好きだったんです」と語る著者の本領発揮だ。第3章以降は前賞までのドラマを現在の宇宙開発の物語につなげた上で「地球外生命はいるのか」というテーマに沿って、最新の研究成果や研究者たちのアプローチを交えながら「人類の現在地」を追っていく構成だ。
 本書ではアインシュタインの言葉である「イマジネーションは知識より大事だ」が冒頭に引用され、想像力=イマジネーションの重要性が繰り返し語られる。登場する宇宙開発の研究者たちは自身のイマジネーションを礎に仮説を立て、検証し、実践していく。人類には翼はないけれど、イマジネーションの力で技術を開発し、海を渡り、空を飛び、宇宙に行くのだと、本書は訴えかける。「何に取り組むにしてもイマジネーションがなにより大事って言いたいけれど、僕が急に現れて、それだけ言ったんじゃ伝わらないですよね。10万字書いてこそ、伝わることがあると思ったんです」
 10万字の執筆にあたっては、周囲の協力者や編集者だけでなく、前著からのファンである読者グループにも意見を求めて推敲を重ねた。「論文を作るときだって、同じことだと思うんです。指導教授が何度も査読して、たくさんの赤字をもらって。論文だってストーリーが大事なので、読者のことを考えて書かないといい論文にはなりません。でも作者はどうやっても読者にはなれない。だから聞いたほうがいいことって、いっぱいあるんです」研究者ならではの視点だ。
読者がわかりやすいように随所に図版を取り入れながら、イマジネーションの機会を奪わないために、想像してもらいたい部分では図も削った。「漫画家さんが一生懸命書いたものを削っていただくのは、本当に申し訳なかったのですが」
 それでも、イマジネーションを膨らませる機会が大切と感じる。「現代は情報が入って来すぎます。昔は通勤電車の中でも、恋人との待ち合わせでも、『何をすることもない時間』がたくさんあった。そうしたときにイマジネーションを膨らませてきたと思うんです」「漫画も素晴らしいけれど、作者のイメージが絵になって固定化されます。10人が読んだら10通りのイマジネーションが思い浮かぶのが、活字の面白さ。漫画に出来ないことをしたい」
 次回作の構想を聞かれると「これでへとへとなので、当分は出せません。何作も出すより一生に一本名作を書く、という気持ちで書きたいです」と笑う。「でも、ミーちゃん(娘)が見てわかる本を書いてみたいですね」
 銀河系に一千億以上あると言われる星のうち、人類が到達したのはたったの八つ。宇宙への旅路は道半ばだが、希望はある。「地球外生命の発見も『自分が生きているうちに』と限るなら難しいでしょう。人生の時間は宇宙のスケールに比べると短すぎます。でももっと長いスパンで考えれば、きっと実現できます」
 地球外生命はいるのか。人類はどこから来たのか。人類は、宇宙にひとりぼっちの生命ではないのか。娘や息子、孫の世代、はるか先の世代、自らを滅ぼすような過ちを犯さずに、その答えには到達できるのか。
 読み終わるなり目を閉じて、眼中の夜空にイマジネーションを膨らませたくなる一冊だ。


宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八 
著者 小野 雅裕
出版社 SBクリエイティブ
新書判276ページ 価格800円+税
http://www.sbcr.jp/products/4797388503.html

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