被災地に残されたペット救出を取材 森絵都が新刊

2012年05月04日

森絵都さん

 ある日突然、町から人が消え、犬や猫が取り残された。作家の森絵都は原発事故で飼い主と離ればなれになった犬や猫を保護する「ペットレスキュー」を取材し、ノンフィクション『おいで、一緒に行こう』(文芸春秋)を書いた。
 震災直後から被災地の動物が気になっていた。ボランティアのブログを探しているうち、中山ありこさんを知り、5月下旬、活動に合流した。
 取材では多くの犬や猫と出会った。甲斐(かい)犬風の「カイ」は陽気に近づいてきた。やせているがひゃらひゃらと甘え、はしゃぎまわる。「カイはいろいろ伝えたくて私たちに走り寄ってきたように見えた。動物たちは今も何が起きたのかわからないまま。怒っている子もいれば、諦念(ていねん)している子もいた」
 保護された犬のその後も追う。里親に預けられ、飼い主と再会。そして再びの別れ。取材は想定以上に広がった。「そこまで書かないと彼女たちの活動の意味が伝わらないと思って。しかし、取材や執筆に時間がかかり、その間に現実はどんどん変わっていく。行くたびに状況は悪くなっているのに、過去としてしか伝えられない。無力感もありました」
 活動は原発20キロ圏内。立ち入り禁止ラインを越える。検問の目を逃れ、時にはバリケードを動かす。警察に見つかれば「ごめんなさい、すぐに出ます」と謝り、進入路はごまかす。仲間の一人は「一日中ずっと嘘(うそ)ばっかり考えてて、それがすごく疲れる」ともらす。保護活動よりも、見つかったときの嘘がつらい、と。
 「心からの声だと思った。堂々と活動したいとみんな言う。悪いことをやっているわけではないのに、どこか後ろめたさがある。正義感という言葉は誰も口にしないし、できない」
 実名で活動の実態を書けば、横やりが入るかもしれない。書いていいのか。妨げにならないか。悩んだ末、良いことも悪いことも全部ありのままに書いた。心の揺れも抑えなかった。「この取材が正しいのか正しくないのか、今もわかりません。でも、記録に残せたことは良かったと思う」(中村真理子)

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