桐野夏生「ハピネス」 ママ友世界の息苦しさ描く

2013年02月26日

桐野夏生さん

 閉塞(へいそく)感に覆われた時代、中でもママ友の世界には特殊な息苦しさがある。桐野夏生の『ハピネス』(光文社)は、都会のタワーマンションに暮らす若い専業主婦たちの物語。一見、勝ち組に見える彼女たち。その暗い影に容赦なく光をあてた長編小説だ。
 月刊誌「VERY」の連載。子どものいる30代の女性が主な読者層と聞き、ママ友を題材に決めた。
 リーダーはいぶきちゃんのママ。47階の「一等地」に住み、夫は一流会社に勤める。対して「花奈ちゃんママ」と呼ばれる主人公の有紗はランク落ちのタワマン、しかも賃貸だ。いぶママからのメールで、ママたちは子連れで集まる。母娘のファッションをチェック。何を持ち寄るか、おやつ選びにもセンスが出る。ささやかな差異が「ママカースト」を強固にする。有紗は「実家は町田」と言っているが、それは夫の実家で自分は新潟出身。つまらないみえを重ねても、いぶママには距離を置かれ「公園要員」扱いから抜け出せない。「うそにあえぎ、がんじがらめ。もうちょっと楽に生きよう、と任を解いてあげたい」と言う。
 自身の子育てを振り返れば「保育園だったこともあり、もっと緩やかで合理的でした」。昔のママもみえをはったけれど、今のような切迫感はなかった、と思う。まわりにあわせなければ、という同調圧力の広がりはママ友の世界に限らない。「ちょっと前までは、異質さは美徳であり、格好良さだったのに」

■追い込まれる女子を励ます
 若い女性の「選択肢のなさ」も気になる。専業主婦志向の高まりは、女性の働く環境が悪化していることの裏返し。仕事がない、働いても、貧困から抜け出せない。「別冊文芸春秋1月号」でアイドルになれないまま年をとってゆく女の子を「神様男」という短編に書いた。取材して驚いた。「職がないから、地方のかわいい子はアイドルを目指してどんどん上京するのだそう」。ほとんどの子はアイドルになれず、貧しいまま。AVに流れていく子も多い。「女の子に罪はない。まともな仕事がないせい。働いたって職場の男尊女卑がひどいでしょう。60歳を過ぎて自分がまた同じことを言うとは思わなかった。性の商品化だ、男尊女卑だ、なんて」
 追い込まれてゆく女性の生き様を描いてきた。筆致にはすごみと同時に女性への信頼がある。『ハピネス』も、最後に主人公が選ぶ道は、世の女子たちへの励ましにも見える。「女性たちの苦しみをこれからも書いていきたい。どんどんひどくなる社会で割をくうのは弱い者。女の人は追い込まれ、あげつらわれがち。尊厳を持って自由に生きてゆくことができない社会は良くないと思うから」(中村真理子)

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