クッキングパパ、長寿の秘密は うえやまとちさんに聞く

2013年02月26日

クッキングパパの料理が生まれる厨房で話をする漫画家・うえやまとちさん=福岡県福津市宮司浜、森下東樹撮影

 悩みがあっても、仕事でへまをしても、おいしい料理がすべてを解決してしまう。料理漫画「クッキングパパ」は28年間、そのワンパターンを崩さない。はやり廃りの激しい世の中で、時代を超えて愛されるには何が必要か。作者のうえやまとちさん(59)に、その秘密を聞いた。
 物語は、主人公荒岩一味(あらいわかずみ)の勤める金丸産業(架空、福岡・天神)とその家族を中心に進む。社員は家族同然のつきあいを続け、社員旅行や鍋パーティーとイベント盛りだくさん。「今の時代、職場の雰囲気はかなりドライ。こんな会社はもう残っていないでしょう」と、うえやまさん。アットホームな空気の中で、まるで水戸黄門の印籠(いんろう)のように「料理」がすべてを解決する「定形」は「ファンが望んでいる。変えてはいけない」。
 一方で、漫画の雰囲気には変化もある。「男子厨房(ちゅうぼう)に入らず」の空気が残る中、料理好きを隠していた主人公は、今はカミングアウトしている。紹介する料理も、読者がグルメになるのに合わせてどんどん高度に。「どうしても、時代に合わない部分も出てくる。読者に違和感を持たれないよう、少しずつ変えていく。それが本当の長く愛される秘密です」
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 福岡県福津市、目の前に玄界灘を望む海岸沿いにうえやまとち氏(59)の仕事場はある。自宅と仕事場の間には専用のキッチンがあり、作品に登場する料理は、必ず自らが作って味を確かめる。台所の壁には、調味料や鍋などが所狭しと並び、ストーブの上にはつい最近、肉を焼いた跡があった。
 うえやま氏は、作品の原動力となってきたこの場所で、取材に応じた。
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 Q はやり廃りの激しい世の中で、長く愛されてきた秘密とは何ですか?
 A 変わらず、ぶれないこと。それに尽きる。クッキングパパは、悩み事があっても、仕事でへまをしても、毎回最後に誰かがおいしい料理を作って解決してしまう。時代劇・水戸黄門の印籠(いんろう)みたいなものだ。マンネリ、ワンパターンとも言われるが、よい形でのマンネリ・ワンパターンというものがあると思う。
 Q 主人公の勤める会社も、昔のままですね。
 A 主人公・荒岩一味が勤める「金丸産業」(架空、福岡・天神4丁目)も、職場のみんなで社員旅行に行ったり、毎日のように鍋パーティーをしたり。そんな会社って今時ないでしょう。でも、それではさみしい。時代遅れと言われても、社員同士の家族ぐるみのつきあいが残っている、あの雰囲気は変えない。
 Q 作品には、主人公が買い出しをする花椎(かしい)名店街など昔ながらの風景がいくつも登場しますね。
 A 現実の世界では、モデルとなった香椎名店街(福岡市東区)は再開発でこぎれいになってしまった。他にも博多の古い風景はどんどん壊されて、新しいビルが建ってしまっている。でも、やはり荒岩が買い物するのは、みんなが知り合い同士で、世間話ができるような昔ながらの商店がいい。作品を通じて、古き良き時代の博多の精神を残したいという思いが強い。
 Q 作品の制作も手書きですね?
 A そうです、昔ながらの手書きを続けています。最近は漫画もパソコンで描けるようになった。実は、私も一度やってみたけど、やっぱり合わなかった。
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 Q 初期の作品を読み返したのですが、少し今と雰囲気が違います。
 A 開始当時はまだ「男子厨房(ちゅうぼう)に入らず」と言う雰囲気が根強かった。だから主人公は50巻くらいまで、料理が得意ということを周囲に隠している。
 ようやく90年代も半ばになると「男の料理好き」というのが社会に認められるようになったから、カミングアウトさせている。
 Q 部下に対する態度も違います。
 A 部下の田中一に対し「バータレイ」(馬鹿たれ!)と怒鳴ったり、頭を平気でゴチンとやったりしている。当時は当たり前だったけど、今はパワハラや体罰に関して世間の目が厳しい。さすがにそれはできない。
 Q 登場する料理もバラエティー豊かです。
 A 読者の舌も肥えているし、食べ物の種類も豊富になった。当初は「すし」とか「カレー」とかそういう単純なくくりでよかったけど、今は相当細かくて高度な料理を紹介することが求められる。毎回考えるのは大変だ。
 Q 変わっていない部分と、変えてきた部分の線引きは?
 A 肝心な、作品の軸の部分は変えない。ただ、周辺の細かい設定の部分は、読者が違和感を抱かないペースで、少しずつ変えていく。そのバランスが大切だ。
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 Q 作品には、多くの実在の食品が登場します。どれも九州で長く愛されている、ソウルフードのようなものばかりですね。
 A 漫画も食品も、同じようなところがあります。多くの人は、ロングセラー商品に対し変わらぬ味を求める。だから、デザインや中身が変わると怒る。
 一方で消費者は移り気だ。人々の味覚も無意識のうちに変わっている。現在は甘さ・塩分控えめが定着しているけれど、昔のお菓子はもっと甘かったし、漬けものとかは、もっとしょっぱかった。逆に、日本人も脂っこい物が平気になったし、韓国料理やエスニック料理の普及で、辛さに対して相当強くなっている。
 ここ数十年の味覚の変化は、想像以上に大きい。どんなロングセラーでも、昔のままの味付けを続けていては、受け入れられなくなってしまうんです。
 長く続けるには、客に変わったと気づかれないように少しずつ変えていくというのが、とても大切。ちょうど、クッキングパパが、少しずつ変わっていったように。
 Q 思い入れのある九州の食品はありますか?
 A マルタイ(福岡市)の棒ラーメン(正式名称・即席マルタイラーメン)が好きですね。即席ラーメンが嫌いだった厳格なおやじが、これだけは許してくれた。さっぱりしていて飽きないんです。作品の中でも、何度か登場する定番です。
 リョーユーパン(福岡県大野城市)のマンハッタンも、ものすごい高カロリー(1個406キロカロリー)ですが、腹持ちがいいとアシスタントがよく食べてます。作品では、部下の田中がうれしそうに食べているシーンがありますね。
 スピナ(北九州市)の「くろがね堅パン」は主人公のお母さんの好物。官営八幡製鉄所の工員向けの栄養食だったことで有名です。荒岩に似て、立派な下アゴで歯が丈夫という設定です。
 Q 九州にロングセラーが多い理由は何でしょうか?
 A 九州の人は、一度これが好きと決めると、はやり廃りにだまされず、好みをあまり変えない。そうした頑固さが、ロングセラーをはぐくんでいる土壌でしょう。でも、九州の外にでて初めて、自分の食べていたものが地元限定と知るんですけどね。
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 Q 漫画を書き始めたきっかけは。
 A 物心ついたときから、絵が好きで描いていました。中学の時に石森章太郎(石ノ森章太郎)さんの「マンガ家入門」(秋田書店)を読んで、プロのマンガ家になると決めました。
 Q 料理をはじめたきっかけは。
 A 高校生の時、両親の転勤で、兄と弟と3人きょうだいで暮らしていました。そのときに慣れない料理をした経験が、クッキングパパにつながっています。
 Q 大分の美術短大を卒業後、横浜や東京に住んでいましたね。
 A 横浜で中学の美術教師をしたり、デザイン会社に勤めたりしましたが、結局福岡で漫画を描きたいと戻ってきました。地元紙フクニチ新聞(92年廃刊)やタウン誌に四コママンガなどを描いていました。
 方向性に悩んでいた1980年、福岡県の山間部にある浮羽町(現うきは市)に引っ越しました。そこで、都会から田舎の駐在所に赴任してきた警察官を主人公に「大字・字・ばさら駐在所」を描きます。そこで、人情物というか、クッキングパパにつながる方向性を確立しました。
 Q クッキングパパの今後の展開は?
 A 長男のまこと君も、沖縄に進学して久しい。そろそろ就職させないと。院にでもいかせるか、悩んでいる。荒岩家も共働きだし、そろそろ新築するかもね。キッチンもそろそろ時代に合わせて新しくしようかな。
 Q どこまで作品を続けられますか?
 A 物語の時の流れは、実社会より半分の速さ。連載2年で、話の中は1年しか進まない。荒岩の定年までとか、200巻まで続けて、といわれるけれど、そのとき私は何歳なんでしょう。
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 1954年2月生まれ。福岡市出身。本名上山敏彦。大分県立芸術短期大学(現芸術文化短大)卒。78~82年、福岡の地元紙フクニチ新聞(92年廃刊)で四コマ漫画「筑紫ン坊」を連載。85年から週刊モーニング(講談社)で料理漫画「クッキングパパ」の連載を続ける。
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 〈クッキングパパ〉 1985年から約28年間、週刊モーニング(講談社)で連載が続く料理漫画。単行本は122巻を数える。博多の街を舞台に、料理好きの主人公・荒岩一味(あらいわかずみ)を中心に展開する人情物語。登場する料理はすべて、作者のうえやまとち氏自ら調理し、味を確かめている。

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