ハンセン病通し生きる意味語る ドリアン助川「あん」

2013年03月27日

「ようやく自分にとっての代表作が書けた」と話すドリアン助川

 小さなどら焼き店を、行列のできる店に変えた老女には、つらい秘密があった。詩人で道化師で作家のドリアン助川の最新小説『あん』(ポプラ社)は、ハンセン病快復者の人生を通して、人が生きる意味を語る意欲作だ。
 どら焼き店の雇われ店長千太郎は「50年あんを作ってきた」という70過ぎの女性を時給200円で雇う。手が不自由な徳江と名乗るその人は千太郎に一から粒あん作りを教え込む。千太郎は仕事の面白さに目覚め、店は繁盛するが、ある日を境に客足が減り始める。原因は、徳江に関する、あるうわさだった。
 執筆のきっかけは、1996年の「らい予防法」廃止のニュースだった。法律で社会から隔離され、人権を奪われた元ハンセン病患者の話が大きく報道された。「この人たちの人生の意味とは何だろう」
 当時、深夜ラジオ番組で若者の悩み相談をしていた。彼らが口々に「人の役に立たなければ生きる意味がない」と言うことに違和感を持っていた。「どんな人にも生きる意味はあるはず。この人たちの生涯にその答えがあるような気がした。それを物語として書いてみたいと思った」。だが、患者の手記や歌集などを読むほどに、その壮絶さに「小説なんてとても無理だ」と一度は断念した。
 それが3年前、ライブに来ていた元患者と偶然知り合いになった。療養所を訪ねて話を聞くうち、かつて療養所に、患者が自分たちのために菓子を作る製菓部があったことを知った。
 驚いた。ドリアン自身が製菓学校を卒業したばかりだったからだ。前年に過労で体を壊して医師から酒を禁じられ、甘党になったのがこうじて本格的に菓子作りを学んでいた。「天から何かが降ってきたようだった。帰り道で物語の骨子ができた」
 徳江は、千太郎を息子のように励ます、筋の通った子ども好きで文才のあるおばあちゃん。ある元患者の本からイメージが浮かんだ。千太郎はドリアンの自画像に近い。「悲惨さを訴えるだけの本にしたくなかった」という通り、読後感はさわやかでやさしい。
 「病気になったり、身近な人を亡くしたりして、生きる意味を見失うことはだれにもある。普遍的なテーマを描いたつもりです」

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