戦国を描いた 吉川英治文学新人賞 伊東潤氏

2013年04月17日

吉川英治文学新人賞を受けた伊東潤

 戦国時代が舞台の短編集と、近未来の警察小説。今年の吉川英治文学新人賞には毛色の異なる2作が選ばれた。『国を蹴った男』(講談社)の伊東潤(52)に作品にこめた思いを聞いた。
■敗れた武将にも「幸せ」
 受賞作は、148回直木賞候補でもある。戦国時代を舞台に、あまり知られていない武将にスポットを当て、敗者の生き死にを描いた6作の短編集。贈呈式で選考委員の京極夏彦から「歴史マニア的な素材を盛り込みつつ、それを読ませてしまう」と評された。
 表題作は、蹴鞠(けまり)名人だが、武将としての能力に欠ける今川氏真の生き様と、氏真に仕えた鞠くくり職人五助の苦悩を描いた。伊東は「戦国時代は勝つか負けるかという二つの価値観だけだったのかという疑問を投げかけたかった」と話す。「負けた者たちも意地を貫いて死んでいった。没落しても幸せだった。そんな姿を描きたかった」
 小説を書き始めるきっかけになったのは、家族旅行だ。2002年5月、たまたま立ち寄った静岡県三島市の山中城跡を見て「この城で激戦があった。その戦いを形で残さないと」と思ったという。
 ビジネスコンサルタントをする傍ら執筆活動をしてきたが、リーマン・ショック後に顧客を失い、専業作家に転身。コンサルタント業の経験が題材のヒントになることもある。収録作「牢人大将」は、領地を持たずに戦い抜いた牢人衆を描いた。「かつて自分もフリーランス。会社でなく仕事に忠誠心を持つというフリーの気持ちを描いた」
 小学6年生のころ、大河ドラマで「新・平家物語」を見て、歴史の面白さを知った。その後、吉川英治の世界にはまり、『宮本武蔵』、『新書太閤記』を読みあさった。
 受賞の知らせを聞いて吉川について調べてみると、自宅から徒歩5分圏内に住んでいたことがわかった。「非常に縁の深い人の名前を冠にした賞をいただき大変光栄です。あらゆる角度から歴史を検証し、物語性の高いものを書いて、歴史小説の面白さを伝えていきたい」

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