日本語の「自由さ」発見 四元康祐に鮎川信夫賞

2013年05月01日

四元康祐=19日、東京・市ヶ谷

 ドイツ在住の詩人、四元康祐(よつもとやすひろ)(53)が詩集『日本語の虜囚』で鮎川信夫賞を受けた。平仮名46字を1度だけ使った「新伊呂波歌(しんいろはうた)」など遊び心たっぷりに日本語の可能性を追求。「言語が持つ呪術的な力に迫りたくて、日本語という魔物を危険な領域まで探索した」と話す。
 各国の詩祭で朗読するなど国際的な活動もしてきた四元は、詩を「人類に共通するメタ言語」と捉えてきた。実際『世界中年会議』など過去の詩集は、意味が明解で翻訳でも面白さが伝わりやすい作品だ。
 だが2010年発表の詩集『言語ジャック』では、いったんつくった詩の各文字を子音と母音に分解し、違う子音や違う母音で詩を紡ぐなど、日本語の特性を活用して「意味を超えた世界」を探った。今回の詩集はその延長線上にある。
 「新伊呂波歌」は、「色は匂(にほ)へど散りぬるを……」と仮名全てを一度だけ使うという制約でつくられた「いろは歌」の現代版をめざしたもの。しかも46の平仮名の「あ」から「ん」まで、それぞれで始まる46編にも及ぶ。「し」で始まる編を紹介すると――。
 「詩、書いてはるねん」 蔑(さげす)まれ 米無く 飢え 痩せ細り 道に立つも 叫(おら)ぶ 「呪(のろ)へ、比喩読むを飽きぬわ!」と
 「鑑賞」というユーモラスな短文もついており、この編は「貧乏詩人の悲哀。呪いの言葉は世界のあらゆる細部に(中略)比喩を読んでしまう己自身に対して発されたものであろう」。
 創作過程はまさしく日本語の実験だった。「新伊呂波歌」は平仮名46字の1字ずつを書いた紙を何度も並べ直して作った。何日もかけてようやく完成したと思ったら、床に「は」が落ちていて、どこにも入れる場所がなく、再びやり直したこともあるという。
 実験を通じて発見したのは日本語が持つ「途方もない融通無碍(ゆうづうむげ)な自由さ」だ。「非論理的なものも『てにをは』がつなげてしまうなど意味を超えて感情を喚起する、ある種の分泌性がある」。そして日本語を操る我々にも「つじつまが合わないものを受け入れ、そこに美や叙情を感じる性質がある」というのだ。
 日本語の深みに入っていくことで翻訳は難しくなりそうだが、「言語を超えた歌や祈り、予言といった呪術的な力。そこのレベルで共有され、翻訳不能なのになぜか伝わるのが本当の意味で普遍的な詩」と話す。
 詩集には、読者にも「新伊呂波歌」づくりを体験してもらおうと、平仮名46字を切り抜けるシートをつけた。「並べていくうちにどこからともなく詩の汁が分泌されてきますから」と詩人は楽しそうに話した。

関連記事

ページトップへ戻る