読んだ後 世界変わる小説を 葉真中顕さん

2013年05月15日

葉真中顕さん

 葉真中顕(はまなかあき=37)の長編小説『ロスト・ケア』(光文社)が話題だ。人間の尊厳を問いかける硬派なミステリー。選考委員の綾辻行人が「掛け値なしの傑作」と絶賛、選考会は満場一致で「日本ミステリー文学大賞新人賞」に選んだ。
 羽田洋子は「介護地獄」に陥っていた。暴れ回る認知症の母に疲弊し、母が死なないことに絶望する。その母はある朝、静かに息を引き取っていた。実は殺されていたとわかった後も、犯人を恨む気持ちにはなれない。「彼」は地獄から救ってくれたから。
 介護を必要とするお年寄りが次々と死んでゆくが、なかなか事件は見えない。介護ビジネスのゆがみ、司法の矛盾をあぶり出しながら、静かな大量殺人は少しずつ真相を見せてゆく。
 認知症で寝たきりになった祖父を2年近く世話した介護経験が、物語を支える。ヘルパーからも話を聞いて、過酷な労働環境に苦しむ介護の現場スタッフ、もうけることを非難される介護ビジネスの経営者といった登場人物を作った。複数の視点をリズムよく切り替え、現在の介護の問題を見せてゆく。
 少年漫画のシナリオや学習誌の記事を書くライター。小説家は長年の夢だったが、書こうと思ったのは「ある日、突然」という。「書かなければ始まらない。書くなら思いっきり突き刺さるような重いテーマにしよう」と決めた。
 登場人物のひとり、介護スタッフの男に「俺たちは『失われた世代(ロストジェネレーション)』なのかもしれない」と言わせた。
 「明るい未来像はもう描けない。バブルを知らない僕たちは、負の遺産を受け継いだという喪失の感覚がある。だからといって世を倦(う)んでも仕方がない。社会の矛盾やしわ寄せを小説で書きたかった」
 重いテーマとはいえ、読後感はすがすがしくさえある。「本を読む前と後で少し世界が変わるような小説を目指していきたい」。次もまた現代社会に向き合ったミステリーを書き始めている。

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