3年ぶり長編 「聖なる怠け者の冒険」 森見登美彦さん

2013年05月29日

森見登美彦

 森見登美彦の3年ぶりの長編小説『聖なる怠け者の冒険』(朝日新聞出版)が刊行された。本紙の連載を全面的に書き直した待望の単行本化。途中体調も崩した森見だが、今年デビュー10年の節目を迎え、「小説の世界に戻って来られてよかった」と話す。
 「僕は怠けるためには何でもする」と豪語する主人公の小和田君は、京都郊外の某研究所に勤める「苔(こけ)むした地蔵」のような青年。正義の味方ぽんぽこ仮面に見込まれるが、跡継ぎを拒否している。なのに、方向音痴の探偵助手・玉川さんに尾行されるわ、ぽんぽこ仮面の身代わりとなって閨房(けいぼう)調査団や大日本沈殿党といった組織に追われるわ。柳小路の迷宮に入り込んだ小和田君の前に、ついに、異世界への扉が開かれる。祇園祭宵山の一日の出来事。
 動く美術館とも言われる豪華な山鉾(やまぼこ)が鎮座し、祇園囃子(ばやし)が鳴り響く祇園祭前日の宵山の夜に、ことのほか引かれるという森見。「八坂神社周辺だけでなく町中の通りを露店が埋め、方向音痴でなくても迷うほど町全体が非日常の空間となる。特に、日常的にぷらぷらとしている場所に、向こう側にいけるんちゃう? という口が開けるのが宵山。町の風景が変わる。僕の小説の世界観に似てるんです」
 小説を書くことを家を建てることに例える。「地ならしがコンセプト作り。建材が文体、間取りがストーリー。1階ができると、2階への階段が見つかる。上に登ると窓からの眺めがかわる。すると用意していなかった材料が出てきて、どこまでも上の階へと上がっていける――というのが理想的な展開」
 新聞連載は、離れができて妙な廊下が延びたが、残念ながら1階建てで終わったという。当時は国立国会図書館勤務で、東京に転勤したばかり。準備を整えての開始にはならず、「見切り発車の一寸先は闇。火事場のバカ力も出ませんでした」と振り返る。
 連載のイメージを崩さずにと考え、書き直すこと6回。途中、退職して専業作家になった。だが、納得いくものができず、体調も崩した。本にせず封印することまで考えた。結局、土台から見直すことに。さらに4回書き直し、主要な登場人物はそのままだが、ストーリーも変え、クライマックスも違う展開になった。「うまい下手は置いておいて、全体が満足いく手触りにならないと小説ではない。そこは譲れない」
 完成した作品は、ビルの屋上や坂道、細い路地、2階の窓のすだれなど、森見ワールドに必須のモチーフが存分に機能している。どれも、別世界への入り口だ。『宵山万華鏡』や『有頂天家族』など、以前の作品の要素も盛り込まれた。
 連載中から好評で、森見も執筆を「助けられた」というフジモトマサルの『挿絵集』も同時刊行。連載中は活躍した幻の人物も登場している。作者2人のコメント付きで、作品のエッセンスが詰まった一冊となっている。

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