加藤周一論、加藤周一的に 仏文学者・海老坂武が迫る

2013年06月26日

海老坂武=麻生健撮影

整理中の加藤周一文庫=京都市北区の立命館大

 「加藤(周一)の文体は私の文体の血肉の一部となっているかもしれない」と書いたことがあるフランス文学者海老坂武が、『加藤周一』(岩波新書)をまとめた。
 加藤は20年以上にわたってエッセー「夕陽妄語」を本紙に毎月執筆し、2008年12月に亡くなった。その加藤をいや応なく思い出させる文体での論考は、加藤の「最大の美質」を「『語り口』、つまり文体にある」と記す。
 「特徴の一つである論理性と共に、すごいと思わせるのは文章のリズムです。広い知識をもとにした対比の術があった。1950年代の『雑種文化論』のころの文章はあまりリズムがないが、60年代の自伝『羊の歌』で、文体が完成したのだと思う」
 『羊の歌』には独特の味わいがあった。「自分を語ることを通じて、時代を語っていた。概念的には個別から普遍へということですが、文章も時代の味がよくわかるものでした。そうでないと、他人の自伝はなかなか読めない」
 加藤を本格的に論じるのは32年前の『戦後思想の模索』に収めた「雑種文化論をめぐって」以来、二度目となる。「その後にも『日本文学史序説』など、大きな仕事があった。雑種文化論とも無縁ではないし、もう一度歩みの全体を考えたかった」
 海老坂にとって加藤は、「何か大きな問題が起こった時に、あの人はどう考えるだろうか」という参照軸だったという。それがすなわち、知識人である。
 「加藤さんが大知識人の一人となったのは80年代ではないか。『夕陽妄語』で読者が広がったと思う。専門的な情報を提供するだけでなく、価値や目的、ビジョンなど見識を踏まえた人が知識人。加藤さんは新しい概念を次々につくったわけではないが、人間とは何かを絶えず問い直していました」
 『戦後思想の模索』で加藤のサルトル翻訳に誤訳が多いと指摘した海老坂は、今回も称賛一色ではない。加藤の若いころの小説や、フランス文学論へは批判の目を向けている。ただ、その距離の取り方も、様々な引き出しを用いて多面的に議論を展開した加藤を思わせるのだ。
 「好きな作家にどれだけの距離を持つのかは大変難しい。しかし、それがないと、満足のいくものは書けないんです」

■加藤文庫 15年秋に書籍公開
 加藤の蔵書やノート、遺稿などをまとめて保管し、整理している立命館大学図書館の加藤周一文庫(京都市北区)は、2年後の秋に書籍を公開すると決めた。貴重書などを除く1万数千冊で、和書と洋書の比率はおよそ2対1。開架式の書架に置き、大学関係者以外も閲覧できる予定だ。

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