好奇心、つながる知 「137億年の物語」ロイドさん

2013年09月26日

特別講義「137億年の物語ができるまで」で自著について語るクリストファー・ロイドさん=7月17日、東京都目黒区の東大駒場キャンパス、池永牧子撮影

 宇宙の誕生から現在までをつづった『137億年の物語』の著者で英国出身のクリストファー・ロイドさん(45)。文系、理系で分かれた知識をつなぐ手法に日本の大学も注目し、「朝日地球環境フォーラム2013」(朝日新聞社主催、9月30日、10月1日)にも参加する。登校拒否の娘を自宅で育てた体験が、執筆の原点だ。
 ビッグバンで宇宙が生まれてから137億年。これを24時間とすると、人類が文明を築いたのは最後の1秒に過ぎない。今、なぜ我々人類がここに生きているのか? ロイドさんは著書で科学、芸術、政治、経済、あらゆる知識をつなげ、この問いに向き合った。「知識はビッグ・ピクチャー(大きな絵)を持てばつなげることができる。俯瞰(ふかん)すれば、木だけではなく森の美しさを伝えることができるのです」
 2003年、当時7歳の長女マチルダさんが突然登校拒否になった。知識を詰め込むだけの学校にうんざりしていた。学校に相談しても「テストの点数は問題ない」と取り合ってくれなかった。好奇心のかたまりで読書好きだった娘が、日々ふさぎ込んでいく。次女と一緒に在宅教育をすることにした。英国では法律で認められており、特に珍しくはないという。
 試行錯誤の末、編み出したのが、誰もが持つ好奇心を刺激し、それの赴くままに学習する方法だ。「ペンギンに興味があるの」というマチルダさんの言葉をスタートに、最初は生態、それから極域の気候、水から氷の変化へと広がり、ペンギンの群れを使って算数を教え、氷山にぶつかって沈んだタイタニック号の歴史にまで発展した。
 知識は点から線になり、やがて面に広がる。2人の娘は夢中になって学んだ。気づくと、1年の予定で始めた自宅学習は5年に及んだ。「学校のカリキュラムは、バラバラに割れてしまったガラスのようなもの。つなぎ合わせた一枚のガラスであれば見えるものがあるのです」
 日本で続く「ゆとり教育」と「詰め込み教育」の論争は無意味だと感じる。「若い心にどのように関わるかがカギで、好奇心を持って、自ら学ぶ気持ちが重要。学校教育でも、創造性に富み、相互につながりがあって、刺激的な環境なら私が行った在宅教育と同じでしょう」という。
 在宅教育はロイドさん自身の好奇心も刺激した。仕事を辞め、半年間かけて家族で欧州各地をキャンピングカーで回った。歴史や風土を体感したことが、著書の構想につながった。
 「退屈は心の病気」とロイドさん。講演でも著書でも、聴衆や読者を飽きさせない仕掛けを作る。英国仕立ての背広に蝶ネクタイ姿で演壇に立つと、ポケットから卵を取り出し、「この中には持ち運びできる海が入っている。卵のおかげで、生物は乾燥した陸にあがれたんです」。身の回りの小物を入り口に、太古の生物の進化から、ギリシャの民主主義、産業革命まで話は及ぶ。
 講演活動は英国王立研究所から地方の文学フェアまで年100回を数え、日本の学界も注目する。7月には東大で講演した。大阪大の平野俊夫総長は今年の入学式告辞で著書を取り上げた。
 毎朝、愛犬「フロッシー」を連れて自宅周辺の田園地帯を歩くのが思索の時間だ。本作りを通して「いかに人間が自然の影響を受けてきたか」を再認識したという。人間中心、科学万能の考え方にはくみしない。「自然の恵みの範囲内での暮らしを」と説く。3・11を目の当たりにして、昨年、著書を改訂する際に「原子力発電を推進しようとする政党など、日本にあるだろうか」と書いた。「日本は温暖化対策にしろ、エネルギーにしろ新しいパラダイムを見せてくれる国だと思っている。ただフクシマの記憶は急速に消えているようですね」

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