「人間みな同じ」異国から伝える 太宰治賞岩城けいさん

2013年10月16日

■作家・岩城けい
 「普通の主婦なので、このような場は初めてで」。今年6月の太宰治賞の授賞式のあいさつ。壇上でふるえていた。居並ぶ文学関係者らを前に、緊張が極度に達したという。
 受賞作『さようなら、オレンジ』(筑摩書房)は、初めて書いた小説だ。オーストラリアを舞台に、アフリカ系移民の女性が英語を獲得し、仕事でも認められ、自立していく物語。
 岩城自身、オーストラリアに移住した1人。1971年、大阪市生まれ。2度の留学後に現地で就職、日本人と結婚、今は子どもが2人の4人家族だ。素顔はお話し好きの笑い上戸だ。
 住んで20年になる。当初は、早く英語に慣れようと必死だった。でも、しょせんネーティブにはなれない。かといって1人では和服も着られない、日本的なものと疎遠な普通の日本人。「自分をなくしそうで怖くて、いらいらしていた時期があった。自分をつかんでおくために何か表現してみたいと思った」
 美術の専門学校に通い、絵画やテキスタイルを学んだ。だが、英語での作品説明が必要に。また、言葉の壁が立ちはだかる。
 子どもが幼稚園に入り、アフリカ系移民の母親たちを見かけるようになった。「おどおどした表情と立ち姿から、何かを訴えたい気持ちが伝わってきた。希望とは関係なくここに来て、ABCから英語を獲得していく彼女たちの根性は、尊敬に値する」
 彼女たちのことを書こうと思った。日本語で小説の形にした。「日本語が自分の言葉、自分を表現するのは日本語だと確信した」
 移民や地元民の国を越えた人の交わりは時にギクシャク、時に温かく。英単語を覚えるのに苦労していた主人公が、息子の学校に「ゲストスピーカー」として呼ばれ、アフリカの話をする場面は実に感動的だ。
 「国や言葉が違っても人はみんな同じように悩み、日常を生きている。それが20年間、ここで暮らして得た結論。そういう普遍的なことを書いていきたい」

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