沖縄の魂込めて 池上永一「黙示録」

2013年10月16日

 沖縄には、作家の魂をかきたてる熱いマグマがある。池上永一の長編『黙示録』(角川書店)は、18世紀前半の琉球王国が舞台。主人公の人生は波乱に満ち、激しい感情がほとばしる。
 了泉(りょうせん)は那覇の市場で踊る貧しい芸人。虐げられ、恨みや憎しみで心がいっぱいだが、野心の大きさと踊りの才は人並み外れている。元踊奉行の男に見込まれ、踊り子の一番の花形「楽童子」を目指す。異常な性癖を持つ王子や、空気の読めない薩摩の若侍など、濃密なキャラクターが現れては了泉を騒動に巻き込み、窮地に陥れる。
 1970年に那覇で生まれ、石垣島で育った。テレビのニュースは1日遅れ、雑誌の「少年ジャンプ」は1カ月遅れ。「自分たちの暮らしが中央の認知に入っていないというのは当たり前。沖縄は日本の端、石垣はその沖縄の端。端っこの意識はずっとあった」
 了泉をはじめ、最下層のニンブチャー(念仏者)といった差別される者が多く登場するが、差別を書いているという意識はない。むしろ、したたかに生きる強さが伝わってくる。
 男の主人公を書くのは苦手だった。「自分が投影されてしまうから」。小学生の頃、舞踊教室に通わされたが好きになれなかった。しかし、踊りを小説に置き換えたら、ふらふらになるまで踊る主人公と、作者はぴたりと重なる。
 小説を書き始めると他のことは何もできなくなる。誰とも会わない、話さない。昼も夜もなく執筆にのめり込む。「息はあがり、キーボードの上で指がもつれる。物語の圧力におされて、とめられない。現実より虚構の方が、リアルになってくる」
 米国や日本の文化が入り交じった沖縄は「沖縄らしさ」を失いつつある。「本当の沖縄って何だろう。ルーツを考えたとき、琉球王朝にさかのぼるしかなかった」。大国のはざまで琉球王国の誇りを支えたのは、踊りという美であり、文化だった。
 120万部のベストセラーとなった2008年の『テンペスト』、10年の『トロイメライ』、そして今作と、琉球王国を舞台にしてきた。「自分の源流としての琉球はかく美しくあれ、という思いでピカピカに描いてきた。自分たちの歴史を肯定して上書きしてゆこうという意識があった」

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