大きな力との対峙、描く 田中慎弥、初長編「燃える家」

2013年11月06日

作家の田中慎弥さん=山口県下関市

 芥川賞受賞作『共喰(ともぐ)い』が映画化され、再び注目を集めた作家の田中慎弥(40)=山口県下関市=が新刊『燃える家』(講談社)を出した。デビューから8年。「作家として身につけたものをすべてはき出した」という自身初の長編は、原稿用紙千枚を超える大作となった。
 下関市をモデルにした海峡の町・赤間関(あかまがせき)が物語の舞台。複雑な出生の秘密を抱える高校生の滝本徹は、同級生らとキリスト教徒の女性教師を暴行する。山口サビエル記念聖堂の焼失、米同時多発テロなど実在の出来事も交え、ちっぽけな存在の人間と、政治や神、天皇など世の中を動かす大きな力との対峙(たいじ)を描いた。
 2010年から13年まで文芸誌「群像」で連載した作品を一冊にまとめた。『共喰い』と並行して書かれたものだ。連載は約2年半の長丁場。性と暴力、政治と宗教、中央と地方など、さまざまなモチーフを作品に潜ませた。
 もともと小説を書くときにテーマは固めない。何となく考えた話を書き進める中で完成させていく。「緻密(ちみつ)に構成したというよりも、必要に迫られていろんな要素を詰め込んだ、というのが正しい。だが書き進めるうちに一つ先が見え、その連続でたどり着くことが出来た」
 この先どうなるのか。この人物は一体誰なのか――。読み手の好奇心を誘う謎をちりばめた構成は、書き手、読み手の両者が最後まで飽きない仕掛けともなっているという。
 これまで書いた最も長い作品で、原稿用紙180枚程度。以前、知り合いの編集者から言われた「デビューから10年以内に、千枚くらいの長編を書いておいた方がいい」との言葉が頭にあり、連載開始前から千枚という分量だけは決めていた。「書く順序からいえば本末転倒。でもデビューが遅い分、人と同じやり方ではいけないと思った。長編はムリだと思ったからこそ、あえて挑んだ。練習と実戦を一緒にやるような感じかな」と語る。
 映画『共喰い』のPRで各地を訪れた。映画と小説は別物で自分の外側のことと言うが、「計算外のこととはいえ、ありがたかったですよ。映画をきっかけに作品も読んでもらえたらまあうれしいですね」。
 長編を書き終えた達成感とともに、自分が空っぽになった感じがすると言う。現在、近未来を描いた次回作を執筆中だ。SF調、かつ原稿用紙300枚という分量もまた未知の世界。それでも「なんとなく枠を決めて書いていけば、田中の小説になるはず、と思っています」

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