物語は読者が完成させる 新作刊行、トゥーサン来日

2013年12月11日

作家のジャンフィリップ・トゥーサン=麻生健撮影

 東京が重要な舞台となる小説『マリーについての本当の話』(野崎歓訳、講談社)を刊行したジャンフィリップ・トゥーサンが、来日した。現代フランスを代表する作家で、アーティストとしても活躍するが、「小説は最も想像力の余地を残す芸術」と語り、小説への深い愛を語った。
 物語は、パリの一室から始まる。情事のあと恋人が倒れて取り乱したマリーは、元恋人の「ぼく」を呼び出す。ぼくは時をさかのぼり、恋人の心臓発作や東京競馬場のハプニング、成田空港での馬の運搬などをリアルに語っていく。実際には、ぼくが知るはずないことなのに、想像(妄想)力は果てしなく、「マリーの真実」が現れる。
 モード界に身を置くセレブで、恋に奔放な女で、裸で海に潜りウニをとる。洗練と官能と自然のコントラストが強烈。だが、マリーの髪や目の色は明かされない。同性愛者のプルーストが恋人を女性として描いたように、ズレやあいまいさが人物像を豊かにし、普遍性を生むというのだ。
 「読者は想像力を働かせ、時に自分の体験も交えながら読むだろう。それが、生の現実を超えるフィクションの力となる。読者の才能によって良い作品が完成する」
 本作はマリーとぼくの物語4部作の3作目。第1作『愛しあう』(2002年、邦訳は03年)、『逃げる』、本作と続き、今年フランスで出た「Nue(裸の人)」で完結した。別れたり愛しあったり揺れる関係がパリや東京、地中海のエルバ島で繰り広げられる。「1作ずつ独立している。どれから読んでもいい。透明な四面体のようなもの」
 デビュー作『浴室』(1990年)が日本でも話題になった。十数回来日し、96年には京都で4カ月暮らした。「自然、町の光、建築、料理――重要な文化を発見した。自分と近い精神性を感じた」
 写真や映画、造形美術など多彩に活躍し、昨年、ルーブル美術館で「トゥーサン展」が開かれた。今は小説への愛が深まっている。「小説は活字という記号を使う。記号は魔法。命を持って頭の中で動き出し、心の世界と直結する。デジタル化で大長編より短編、連続性より断片が主流になるかもしれない。だが、人間の書きたいという気持ちが消えることはない。紙は消えるかもしれないが、文学には未来がある」

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