政治の在り方に影響与えた 大佛次郎論壇賞を受賞して 「ブラック企業」今野晴貴

2013年12月24日

今野晴貴さん

■政治の在り方に影響与えた
 『ブラック企業』にはどんな意義があったのだろうか。
 第一に、「ブラック企業」というインターネット上のスラング(悪口)に過ぎなかった言葉の広がりを、「社会問題」として提起したことだろう。「ブラック企業」とは、若者を正社員として採用しながら、次々に過重労働で使い潰し、鬱病(うつびょう)・過労自殺・過労死に追い込むような企業を指している。この認識は、現在では厚生労働省にも共有され、対策も打ち出されているが、本書がはじめて提示した理解である。
 そして、若者の「使い潰し」は鬱病の蔓延(まんえん)、医療費の増加、税収の減少、少子化をも招いている。私はたまたまひどい経営者がいるというような、「悲惨な物語」ではなく、事実の集積とその分析によって、個人の被害にとどまらない「社会問題」としてのブラック企業問題を明らかにしたかった。
 このため『ブラック企業』は近年繰り返されてきた「若者の告発」という姿勢をあえて採らなかった。雇用問題はしばしば世代間対立として語られがちだが、ブラック企業問題は世代を超える日本社会・国家全体の問題であることを示したかったからだ。
 第二に、若手NPOが現場から、政治・政策に影響を与えたことだ。ブラック企業問題は、「若者の甘え」だとも言われていた。長時間労働やパワーハラスメントも、「若者の受け止め方が過剰なのだ」と言われた。しかし、同書の刊行後、参議院選挙の争点となり、国も対策を打ち出した。現場からの発信で、わずかながら政治や政策の在り方に影響を与えることができたと思う。
 私は大学生だった2006年にNPO法人POSSEを立ち上げ、以来仲間と共に3千件近くの若者からの労働相談に関わってきた。独自に調査を行い、雑誌「POSSE」を発行して政策提言にも取り組む。
 労働相談や雑誌発行を始めた当初は、「若い者に何ができる」と嘲(あざけ)られるばかりだったが、多くの仲間や労働弁護士、学者等の支えで乗り越えてきた。最近では学校・教育関係の協力者も少なくない。
 今では「POSSE」は行政関係者やメディア関係者、大学の研究者等も、「第一線の情報」として重宝していると聞く。「POSSE」には現場の労働相談や調査報告のほか、木下武男氏や濱口桂一郎氏など一線の研究者が論考を寄せ、そうした議論が『ブラック企業』を生み出す基ともなった。
 今回の受賞で、若者も、地道な活動を通じて仲間や協力者を増やし「社会を変えられる」と示すことができたと思う。同世代、これからの世代の人たちに、『ブラック企業』の後に続いてほしい。

 <こんの・はるき> 1983年仙台市生まれ。NPO法人POSSE(ポッセ)代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍。著書『ブラック企業』(文春新書)が第13回大佛次郎論壇賞に決まった。

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