牛の臓物 夜ごと究めるフードジャーナリスト 小口綾子

2014年01月21日

■「ホルモンヌ」のフードジャーナリスト 小口綾子(こぐちあやこ)さん(37)

 「ホルモンヌ」と呼ばれる女性たちがいる。
 牛のミノ(第一胃)、ギアラ(第四胃)、シビレ(胸腺など)……。臓物料理好きが高じた人たちのことだ。フードジャーナリストの小口綾子さん(37)もその1人。師走の夕刻、江東区亀戸の「ホルモン青木2号店」へ小口さんに同行した。
 知る人ぞ知る激戦区。ぷりっぷりの牛のシマチョウ(大腸)から脂が七輪にしたたり落ち、煙が立ちこめる。厚切りのレバー、薄切りのツラミ(頰(ほお)肉)と、161センチ、47キロの小口さんは食べていく。「素材が良く、大ぶりに肉を切る店。財布にも優しい」
 この日は、ほかに焼き肉、フレンチで牛肉を食べた。「同じ部位を食べ比べる時もある。食べ続ければ肉の違いがわかってくる」
 千葉県出身。都内の短大を卒業した1997年春、大手の不動産販売会社に一般職で入った。お茶くみ、経理、庶務……。「目的意識を持たずに入社したので、やりたい仕事が見つからなかった」。夏には退職した。
 その後、「派遣」で大手広告会社や商社系企業で働いたが、条件や環境で仕事を選ぶだけ。「自分の居場所はここじゃない」という気持ちが日に日に強くなっていった。
 29歳で離婚。「もう、誰にも遠慮はいらない。やりたいことを究めよう」。趣味の食べ歩きにのめり込んだ。食通を自認するフードライターはあまたいるが、肉専門の女性の食べ手は多くない。「牛肉好き」の小口さんは徹底的にこだわった。
 焼き肉を食べ歩くうちに臓物の魅力にもとりつかれる。都内のホルモン店に100軒以上通い、感想をノートに書きとめ、カメラで撮った。毎月の外食費は10万円を超えた。2010年、『東京絶品ホルモンガイド』(グラフ社)を出版。「タレの正肉に行く前に、ハツと上タンを塩で食べていただきたい」と、食べ方を指南。食肉処理場の見学記も添えた。
 的確な批評が話題になり、ブログやツイッターで肉の情報や店の感想を発信すると、業界に知己ができた。六本木で焼き肉店を経営する千葉祐士さん(42)は「彼女は自腹で食べているから真剣。味やサービス、店の雰囲気を指摘するプロの食べ手で、お客さんの代表だ」。畜産会社の経営者とも親しくなり、牧場も見学するようになった。
 11年から飲食店検索サイト「食べログ」の運営会社で働く。店を評価する口コミを情報操作する業者がいた問題を受け、各地の投稿者を訪ね、ちゃんと評価しているか確かめている。収入安定のための会社勤めではあるが、食の信頼を担う意味もある。
 本職のフードジャーナリストは「牛肉一本でいく」と決めた。夜ごと食べ歩き、批評の場はテレビや雑誌にも広がった。自信を持って薦められる店しか取り上げないのがモットー。「プライドを持ち、おいしい牛を育てたいと思う生産者がいる。良い牛肉が適正に評価される世の中にしたい」(橋田正城)

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