佐村河内氏の物語と音楽の矛盾に違和感 「新潮45」執筆の野口さん

2014年02月18日

野口剛夫さん

■音楽評論家・野口剛夫さん「メディア、厳しい目必要」

 佐村河内守のゴーストライター問題を受けて、クラシック音楽界に衝撃が広がっている。「『全聾(ろう)の天才作曲家』佐村河内守は本物か」と題する論考を「新潮45」の昨年11月号に発表し、佐村河内を批判した音楽評論家・指揮者の野口剛夫(49)に、改めて話を聞いた。
 新聞やテレビなどが佐村河内への好意的な報道一色となっていることに違和感を抱いた野口は、交響曲第1番「HIROSHIMA」を聴き、さらに疑心を深めた。「マーラーやショスタコービチなどをほうふつとさせる部分が随所にある。和洋中何でもござれの定食屋のようだった」
 最初からほかの音楽家の作風を採り入れた曲として発表したのならともかく、佐村河内は自伝「交響曲第一番」(講談社)でこうつづっていた。
 《全聾の作曲家である私しか聞くことのできない、心の耳に届く闇の音色を探し求める》
 野口は「『私しか聞くことのできない音』と言いつつ、聞こえてくるのは、他者に強く影響された響き。この矛盾を見過ごすことはできなかった」と指摘する。また、原爆をテーマに掲げた「HIROSHIMA」の音楽からは、戦争や平和についての普遍的なメッセージを読みとることができなかったという。
 「感じたのは、4畳半の青年の苦悩。悲劇らしさはあってもあくまで個人的な感傷にとどまっており、スケール感が不足していた」
 野口はそうした違和感を、問題が露見する前の「新潮45」で表明。騒動後、ゴーストライターを務めた作曲家の新垣(にいがき)隆は「HIROSHIMA」が、元々は別タイトルの作品だったと明かした。
 CDが数千枚売れればヒットと言われるクラシック業界。実験性が際立つ現代音楽の愛好家はさらに限られる。そんな中、佐村河内は「全聾」「被爆2世」といった「物語」を前面に押し出すことで、「HIROSHIMA」を18万枚もの大ヒットにつなげた。
 「クラシック愛好家以外にも聴いてもらえるように、メロドラマ的でわかりやすい音楽にしてある。佐村河内氏は、そうしたプロデュース術にはたけていた」
 今回の一件から得られる教訓とは、何か。
 「『物語』にウソがあっても、音楽はウソをつけない。個々の聴き手が自分の頭で音楽の良しあしを判断できればいいが、なかなか難しい。だからこそ、レコード会社やメディアには、強い自覚と厳しいチェックが求められている」(神庭亮介)

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