心の病に見る日本人 最相葉月の新著「セラピスト」

2014年02月19日

ノンフィクションライター・最相葉月さん

 心の病や統合失調症という病名を多くの人が話題にするようになった。患者の体験記や症例リポートは出ているが、「治す側はどういう人たちなんだろう」と思ったノンフィクションライターの最相葉月が新著『セラピスト』(新潮社)を刊行した。心のあり方の移り変わりから見た日本人論でもある。
 『絶対音感』など、科学と科学ではわりきれないもののはざま、知っているようで知らないことに焦点をあててきた。『星新一』から7年ぶりのノンフィクションのテーマは「こころ」だ。
 カウンセラーに不信感があったという最相。悩みの相談全般に使われるなどカウンセリングの意味があいまい。臨床心理士などは試験が必要だが、数カ月講義を受ければ得られる資格もある。「本物と偽物がいるのか。いつかテーマにしようと思っていた」
 本書のタイトル「セラピスト」は医師を含めたカウンセラーたち治療者のこと。〈自分の問題点や思考の傾向を知り(略)患者を傷つけたりしないよう訓練する〉ため自らカウンセリングを受ける。個々の患者にあわせた柔軟な対応が求められる。患者との相互関係の中で自分自身も問われる過酷な仕事だ。「治してあげる側の人だという思い込みは覆りました」
 臨床心理学者の故河合隼雄が、思いを言葉にするのが苦手な日本人に向くと取り入れた箱庭療法など、かつてはイメージで内面を表現する療法が有効だった。だが今世紀に入り、イメージを表現できず「なぜだかわからないが苦しい」と訴える相談者が増えているという。「はやりの認知行動療法は原因は問わない。例えば、ネガティブな考え方を修正する方向に促す」
 症例も、対人恐怖症などが減った一方、発達障害が目立ってきた。「社会環境や経済状況、家族のあり方が変われば、人間関係や精神のあり方も変わりますから」
 SNSの発達は、コミュニケーションのあり方を劇的に変えた。外に発信できない人は生きにくい時代だ。本書の表紙に英語で「Silence in Psychotherapy」と記した。「今回、沈黙という時間の中にも言葉があることを学んだ。そういうものが大切だという思いを込めた」
 セラピーは密室で行われ守秘義務もある。患者の了解を得て具体例を紹介したが、もっと生々しいものをと自分を被験者にした。精神科医・中井久夫の元に通い絵画療法を受けたのだ。「中井先生には自分を隠せなかった。思わず話してしまう。そういう取材が行く先々で起こった」
 人の話を聞くプロ同士が向き合う取材。「全人的に見透かされているようだった」。取材の途中で自身も体の不調を覚えた最相は精神科を受診、自らの病と症状についても本書にさらけ出した。「このテーマで書くかぎり、自分を隠すのは逃げだと思った。ただ改めて思うのは、結局、自分のことってわからない、ということです。これからも問い続けるテーマです」

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