現代の人間失格描く 西加奈子「舞台」

2014年02月26日

作家・西加奈子さん

 自意識とは若者をもっとも悩ませ、それゆえに青春を色づかせる。西加奈子『舞台』(講談社)は、とびきり自意識過剰な青年が旅先で高揚感と羞恥(しゅうち)心に揺れ、自問を重ねる。明るくユーモラスな筆致でつづる長編は現代版の太宰治『人間失格』でもある。
 葉太(ようた)は29歳で初めてニューヨークを訪れた。一人旅の目的は、セントラルパークで寝転がって本を読むこと。あまりにも「タイムズスクエアすぎる」街並みや、公園でサックスを吹き出す「いかにも」な初老の黒人。『地球の歩き方 ニューヨーク』のガイドの文が挿入されて、気持ちは高まるばかり。
 ところが滞在初日にバッグを盗まれて一文無しに。しかし葉太は誰にも助けを求められない。はしゃいだあげくのまぬけな観光客と見られることが恥ずかしすぎるからだ。不安と恐怖を抑え、旅慣れた余裕を気取り、街をさまよう。
 「私も都内の公園ではしないのにセントラルパークだと寝転ぶし、日本では着られないような派手な服を買って帰りの飛行機で我に返り、わーって叫びたくなることもある。みんな覚えがあると思う。その恥ずかしさをいちいち感じる主人公を書きたかった」
 葉太は『人間失格』を読み、主人公に自分を重ね、太宰の作品を読みあさる。「作家になって10年、ますます太宰のすごさを感じる。ひねくれているようで真っすぐな言葉を書き、絶望しながらそんな自分を笑う。苦しみを知っている分、光を見つけたときに強度がある」。ブームといえるほど、若い世代に太宰ファンが増えている。「ものすごく苦しい作品に共鳴している。みんな苦しいんだと思う。そんな人たちと自分自身に向けて、この小説を書いていた」
 小説は誰かを救うもの。そう思ったのは、高校時代に出会った一冊の本がきっかけ。装丁にひかれて書店で手に取った、米国の作家トニ・モリスン『青い眼がほしい』に、衝撃を受けた。「年齢も人種も違う、こんなに遠い人の言葉がなんで届くんだろうって。たぶん実際に会うより大きな力を本からもらった。だから自分で小説を書く時は、いつも、主人公に救われてほしいという思いを込めて書いています」 (中村真理子)

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