「魂が複製される未来」 瀬名秀明が連作集「新生」

2014年03月18日

瀬名秀明

 瀬名秀明(46)の3編からなる連作集『新生』(河出書房新社)は震災後の世界を描きながら、小松左京の未完の大作『虚無回廊』にオマージュを捧げた意欲作だ。人工知能を超えて人間の魂を複製する「AE」(人工実存)など、SFの巨人が作り出した大胆なアイデアを受け継ぎ、新しい未来の形を描く。
 「SFは未来をつくるのだ」。『新生』の1編「Wonderful World」で瀬名はこう書いた。コンピューターサイエンスを専門とする主人公が、仲間たちと「震災後の未来」のシミュレーションを作る。そのシステムは、人々の倫理観を矢印の動きで可視化する。震災後、大嵐のように揺れた無数の矢印は、そのうち動きを失ってしまう。人々は無関心になったのだ。しかしある出来事を契機に、矢印は再び激しく揺れ始める。
 倫理観、特に生命倫理に興味があった。1970年代に「試験管ベビー」と騒がれた体外受精が今では身近になったように、デザイナーベビーも数年後には抵抗が薄れるかもしれない。「技術が進めば必ず倫理が変わる。どこかで社会が新しい倫理を受け止める。それが未来が生まれる瞬間だと思う」。だから「未来を書くことは、倫理を書くこと」という。
 仙台市在住。表題作「新生」は震災で居場所を失った男が女と出会う。2人は灯台にのぼり、世界を見渡す。電子文芸誌「月刊アレ!」の2011年10月号で発表した。「まだ生々しく、小説にするにははばかられる雰囲気があった」という中で書いた作品は幻想的で光に満ちている。
 震災後、東京と「問題意識がかなり違う」と感じた。同じ被災地でもひとくくりにできない。福島は原発、仙台は津波。ひとつ道路を渡れば被害の大きさは変わる。「大きな出来事が起きると、未来は分裂する。僕らはひとりひとり違う未来を生きていく」と実感したという。
 人工知能学会や日本ロボット学会など学術会議に招かれることが多い。作家がなぜ? 「専門家であるがゆえに見えない未来があると彼らは思っているようです。突拍子もない防災のやり方があるのでは、とロボットの専門家が思っている。作家は自由な想像力が求められている。こういう未来ありかも、と科学者が読んでも思えるようなSFを目指したい」

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