日常に潜む、鮮やかなだまし 長岡弘樹の新刊「波形の声」

2014年04月01日

長岡弘樹さん

 『教場』が昨年のミステリーランキングで高い評価を得た長岡弘樹。新刊『波形の声』(徳間書店)は読後感ががらりと変わる。ささやかな気づきから生まれる鮮やかなトリックに、気持ち良くだまされる。
 小学4年生の男児がある教師の万引きを見た後、何者かに襲われる表題作。近所の老人同士で過熱する健康自慢の裏に秘密が隠されている「宿敵」など7編。日常の謎というほかは、登場人物もテーマも多彩だ。
 文庫でヒットした出世作『傍聞(かたえぎ)き』など、人間の心情を絡めたトリックが人気だ。善意と悪意は紙一重。「人間の感情を決め手にしたい。小道具をうまく使うことに気を使う。登場人物にセリフでしゃべらせるのではなく、小道具に託して語らせる」
 身の回りの出来事がトリックの種となる。本を読み、テレビを見て、いろいろな人と会う。「生きていて自分の中に入ってくるものすべて、使えるものは使いたい」。アイデアは思いついたら書き留める。食事中も傍らにメモ。風呂場にはぬれても使えるメモ。パソコンで一覧表にして集めている。「メモは増える一方ですがほとんどが死屍(しし)累々」。行き詰まったときは、部屋の中で腕を組み、ぐるぐると歩き回るそうだ。歩数計をつけてみたら1万歩を数えていた。一つの作品にかける時間の8割はプロットを考えている。
 だますのも好きだが、だまされるのも好き。「そうだったのか、という落差がいい。ストンと落とされる面白さは小説でしか味わえない」。短編ミステリーには、短編ならではの難しさと、だからこその「してやったり」という快感がある。「一つの情報に二つ、三つの意味を込める。そうすれば作品から必然的に無駄なものが排除されて、美しい形になると思う」

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