想像力フルに夢の中へ旅行 村田喜代子の新作小説「屋根屋」

2014年04月15日

村田喜代子さん

 村田喜代子の新作小説『屋根屋』(講談社)が23日に発売される。平凡な主婦と一風変わった屋根職人が夢で出会いを重ねる、不思議な「恋愛未満」小説だ。「夢から覚め、何を見たか思い出せないことって多いでしょ」。描いたのは、そんな「夢に閉じ込められたもの」だという。
 主人公は、北九州市近郊を思わせる街に夫と息子と暮らす40代の主婦。そこに雨漏りの修理で屋根屋がやってくる。身長190センチ近い50代半ばの大男で、強迫神経症の治療で始めた夢日記をきっかけに、夢を自在に見られるという設定だ。
 「奥さんが上手に夢を見ることが出来るごとなったら、私がそのうち素晴らしか所へ案内ばしましょう」
 「まあ。どこへ」
 魔神と姫さながらのやりとりで、2人の「夢行き」は始まる。夢で巡るのは、フランスのシャルトル大聖堂や奈良の法隆寺といった建造物の屋根。
 ストーリーは現実離れしたファンタジーでも、筆致は淡々とし、浮つかない。経験に基づく現実感に裏打ちされているからだろう。屋根屋は以前住んでいた家に来た職人がモデル。2人が同じ夢を見るアイデアは心理学に詳しい知人との会話から。屋根瓦の質感は淡路島の工房で体験した。
 ただ、高所恐怖症なので実際に屋根に上がったことはない。体験できない分、想像をふくらませる。初めて芥川賞候補になった「熱愛」も、自分では乗れないオートバイの話だった。
 「年齢とともに記憶力は落ちるけど、想像力は増すって聞きました。いい年して何を考えているのかと、自分でも笑ってしまう」
 本作の取材でフランスにも行った。そのころに起きたのが東日本大震災。「のんきに夢を見ているような小説を書いていていいのか」と悩んだという。
 迷いを消し去ったのも想像力。2人が空からパリを俯瞰(ふかん)する印象的な場面が登場する。見渡す限り連なる屋根を見て、主婦は「地上は平和なのだ」と喜びに胸を熱くする。このイメージをつかみ「書ける」と思えた。「戦争や天変地異でまず崩れるのは屋根。屋根は平和のシンボルなんです」
 遊郭の中の学校を舞台にした読売文学賞受賞作『ゆうじょこう』、放射線を使う最新のがん治療が登場する『光線』……。描き出す世界は違っても、「小説のおおもとは一つ、人間」と考えている。どこかに出かけたり、誰かと会ったりすると、自分という受信機に何かが引っかかり、小説が生まれる、という。
 「もしも90まで寿命があれば、90まで書いていると思います。小説をね」

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