文章を愛するからこそ 金井美恵子「エッセイ・コレクション」完結

2014年04月22日

金井美恵子さん

 言葉を使うことに徹底して意識的な作家金井美恵子。なめらかな文章で紡がれる小説とともに、舌鋒(ぜっぽう)鋭いエッセーでもファンを魅了してきた。半世紀にわたる批評やコラムからえりすぐった全4巻の「エッセイ・コレクション 1964―2013」(平凡社)が、このほど完結した。愛と憤りを原動力とするスタイルは一貫している。かつ、まったく古びていない。

 社会時評的な批評を集めた『夜になっても遊びつづけろ』をはじめ、『猫、そのほかの動物』、『小説を読む、ことばを書く』、『映画、柔らかい肌。映画にさわる』の4巻。

 ■温かさと鋭さと
 題材は「すごく好きか、すごく頭に来たか」で選ばれる。石井桃子や大岡昇平らへの評論、猫への思いは愛情深い。中上健次や澁澤龍彦との思い出も、温かさが読者に伝染する。
 一方、「批判するときは、本質的な問題に触れたい。こういう使い方は許せない、と思う一言から広がる場合もある」。
 書評や映画評は、関連作品にもあたって時間をかける。「いろんな言葉を考えてある種練った文章で批判することは、義務でありマナーです。何がいやって、間の抜けた文章。自分の文章でも困るし、他人の文章でも嫌い。文章を、普段使わない言葉だけど、愛しているせいでしょうね」
 1巻の解説で作家の中島京子が、「長く、くねくねと蛇行する文体は、どこへ行くのかわからないように見えて、その実、ここしかないというところに針を突きたてるようにおさまる」と明察している。
 丸谷才一『女ざかり』について評論家らの書評を引用し、「産児制限」の誤用など作者の〈取り違え〉を明らかにする。溝口健二監督の「退屈さ」についてもしかり。「普通に読むとほめているような、すごい皮肉が書けた時は楽しい」
 ただ、けなしていてもユーモアが感じられ、それを読みたい見たいという気持ちにさせるのも金井の評の特徴である。

 ■変わらず半世紀
 19歳のデビュー時から、「小説にすべてを書くタイプではない。批評やエッセーは、小説の力を支えてきた」。〈幸福というのは気味の悪いもので〉と始まる「幸福なんて」(72年)は、〈相対的な関係の中でゆれ動かざるを得ない〉ものと定義し、〈幸福ではない人がいるという事実ほど、わたしたちを安心させるものはないのだ〉と本質をつく。言葉を尽くすが無駄は一切なく、よどみない文章は変わらない。
 1巻には16歳の時に雑誌に投稿した現代美術論も収録され、早熟ぶりを証明。「思ったほど成長していないことに、自分でもびっくりします」と笑う。
 発表当時、反論されることは少なかった。「面倒くさいから言わしとけ、という大人の態度なんでしょうね」。自身は、過去に批判しても認識を改めた場合は書くようにしている。「場を持っているから。伝えるべきだと思う」
 今回のコレクション刊行で、今になって感想を聞けたり、また、新しい読者からも反響があったり、喜びを感じているという。
 著作はどれも美しい造本で、今回も姉の久美子さんが装丁した。「本は子どもの頃から大好きなものの一つ。あまり凝った作りは好きじゃないけど、せっかく作るのだから読みやすく、形も奇麗で可愛くて、しゃれた本にしたい」
 (編集委員・吉村千彰)

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