運命と偶然、左右される男女 辻原登「寂しい丘で狩りをする」刊行

2014年05月13日

辻原登

 運命と偶然に左右される人間の悲しみと切なさを描いてきた辻原登が、サスペンス小説『寂しい丘で狩りをする』(講談社)を刊行した。男女4人の追いつ追われつで、ページを繰る手が止まらない。「作家は一種の創造主」と話す著者に聞いた。
 野添敦子は映画フィルムの修復などを手がける編集者。7年前にレイプされ、彼女を逆恨みする犯人押本の復讐(ふくしゅう)におびえている。出所した押本の動向調査を、私立探偵の桑村みどりに依頼するが、みどりもまた、元恋人久我のストーキングにあっていた。
 敦子を捜す押本を見張るみどりに迫る久我。みどりは敦子に言う。「(敵に)背中をみせるのをやめなければいけないときがくる。向き直って、正面から対決しなければならないときが」と。狩人と獲物の関係は逆転するのか。
 1997年の設定。実際の殺人事件をモデルにしたが、結末は違う。「女性たちが暴力犯罪の犠牲になることに義憤があった。女性が勝つ小説にしたかった。しかし、完全犯罪で男を消せばいいのか。それで救いはあるのか。たとえ小説が終わっても、彼女たちの人生は続いていく」
 自分の力で問題を解決しようと決心する女たちの成長物語でもある。仕事や生活ぶりが丁寧に描かれ、女性読者の支持を得ているという。自立した女が合理的に思考し、強くなっていくさまがリアルだ。
 一方、非道な男たちの心理はほとんど描かれない。前作『冬の旅』でも、内面を持たない犯罪者を主人公にした。「人間には内面があり、動機があって行動に移すと信じられてきた。しかし、朝起きた時に動機をもって動いていますか? 最近、内面が見えない犯罪者が増えていると感じる。内面はないが生きているという人物を、行動、つまり外側だけから描いてみようと思った」
 ただ、男たちも不幸な生いたちがあり、自身の衝動と執着心に振り回されているともいえる。心は見えないが、人間の悲しみや切なさが本からあふれ出て、読後の余韻を生む。 この小説のもう一つの主役は映画のフィルムだ。山中貞雄の幻の作品が見つかり、ぼろぼろのフィルムを敦子が復元しようとする。敦子とフィルムの再生の物語でもある。押本は映写技師で、昔その作品を上映したことがあった。
 「登場人物たちが偶然だと思っていることを運命にするし、追い詰めてしまうのも作者。そういう悲しみもある。自分が作った登場人物に悪人だが可哀想だなあ、と同情心がわくこともある。神がいるとしたら、人間に対してそういう気持ちを抱いているのではないでしょうか」(編集委員・吉村千彰)

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