「治らない」医師と患者の苦悶 日本医療小説大賞受賞・久坂部羊「悪医」

2014年05月20日

久坂部羊

 現代医療を題材に書き続けている医師で作家、久坂部羊(くさかべよう)の最新作『悪医』(朝日新聞出版)が、第3回日本医療小説大賞を受賞した。自らの外科医時代の体験を下敷きに、がん治療をめぐる医師と患者の「溝」を見つめた。
 「残念ですが、もうこれ以上、治療の余地はありません」。医師に告げられた胃がん患者は、錯乱して言う。「私に死ねと言うんですか」。死への不安に耐えられない患者と、患者からの不信にすり減っていく医師。それぞれの苦悶(くもん)を描いた。
 「患者は医者が病気を治してくれることを期待しますが、治らない病気もある。そのとき両者が信頼関係を結ぶのはとても難しい」。主人公の医師は、25年前、若き外科医だった自分自身だ。
 当時は、がん告知自体もまれな時代。末期患者にも「大丈夫」「よくなりますよ」とごまかした。受け持っていた患者たちの死を引きずり、「外科医は向いていない」と思った。当直室で小説を書き始めた。
 まひで動かなくなった高齢者の手足を「治療」として切断する医師が登場する『廃用身』でデビュー。悪魔の疫病が日本列島を席巻する『第五番』など、架空の設定に、現役医師ならではのリアリティーを加えた医療小説を生み出してきた。
 だが、今回はあえて奇抜な設定を使わず、現実の医療現場を描ききった。「作家としては、実はこれが本当に書きたかったものなんです」。ロシア文学に傾倒し、純文学作家を志した高校時代の夢が、本作で結実した気がする。
 作中の患者は、さまざまな治療法を試して奔走した末、最後は自らの死を受け入れる。医師側の苦悩にも気づいた上での、静かな旅立ちだ。「死や病は目を向けたくないものですが、命を縮める不必要な治療の矛盾にも気づいて欲しい。そのことを発信したかった」

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