「乙一」筆名変えた理由は 映画「百瀬、こっちを向いて。」原作の中田永一

2014年05月27日

作家の中田永一さん

 高校生男女4人の切ない恋愛模様を描いた短編「百瀬、こっちを向いて。」が、早見あかり主演で映画化され、全国公開中だ。「これを書かなかったら作家をやめていたかも知れない」。若くして注目された人気ライトノベル作家・乙一(おついち)が、筆名を変え、再出発するきっかけとなった作品だ。

 主人公のノボルは根暗な男子。恋愛とは無縁だったが、ある日、同級生の女子の恋人の“ふり”をするよう持ちかけられる。天真らんまんな美少女の百瀬に振り回される淡い日々を、みずみずしい筆致で描いた。

 「僕自身、友だちもぜんぜんできなくて暗い学生時代を送っていたので……」。ノボルは過去の自分自身。似たような青春を送る今の若者を勇気づけるような気持ちで書いた。

 狗飼恭子脚本の映画を見て、「男子の妄想と言われそうな物語が、女性脚本家の手でより立体的になった」と感じたという。

 高校1年の夏休みに書き上げた『夏と花火と私の死体』で、ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、17歳でデビュー。乙一のペンネームでホラーやミステリーから恋愛小説まで、幅広いジャンルの作品を量産し、作品は次々に映画化された。だが、世間の注目と比例するように「ひっそりと作家活動をしたい」という思いが募った。

 「作家をやめよう」と思っていた約10年前、恋愛短編の依頼がきた。覆面作家でいいなら、と引き受け「なるべく目立たないように」と中田永一と名乗って寄せたのが本作だ。以来、恋愛小説は中田名義、時代小説や怪奇ものは山白朝子名義で書き分ける今のスタイルを確立していった。

 「中田、山白という逃げ場をつくってくれた出版社に恩返しをしたい」と一昨年、公式に乙一であることを明かした。「二つの名義を使い分けて、バランスをとっているのかも知れない」。まだ35歳。早熟の作家は、新しいステージに立っている。(板垣麻衣子)

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