猫たちの珍事、ユーモラスに ハルノ宵子、コミックエッセー

2014年06月03日

ハルノ宵子

 マンガ家のハルノ宵子(56)が、猫たちがみせる生命のあるがままを、懐かしいタッチのイラストと軽妙な文体でつづったコミックエッセー『それでも猫は出かけていく』(幻冬舎)を刊行した。父で思想家の故・吉本隆明との生前の思い出にも触れている。
 「ミャアオ」。東京都文京区の自宅を取材に訪れると、本書の主人公ともいえる白猫のシロミが出迎えてくれた。「取材の人に愛想がいいの」。取材中も飼い主のそばを離れず、空いた座布団の上でのどを鳴らしながら眠ってしまった。
 「自身の“欠落”のほとんどをシロミに教えられ、学びました」と書いた。約10年前、近所で拾ったシロミは、事故で脊髄(せきずい)を損傷し、排泄(はいせつ)のコントロールができない子猫だった。おむつをはかせたり、薬を飲ませたり。世話に奔走する日々の中で、猫たちが繰り広げる珍事を、冷静かつユーモアたっぷりに活写した。
 シロミのほか数匹の飼い猫に加え、外猫、通りすがりのノラなど、数え切れない個性的な猫たちが登場する。35年前、一家が引っ越してくると、隣の墓地には、事故にあったり病気で弱ったりしたノラや捨て猫がわらわら。思わず拾って保護するうちに、「猫びたりの毎日」が始まった。
 父の隆明が生涯可愛がったのが、メス猫のフランシス子。父以外には懐かず、丸一日書斎を離れなかったという。フランシス子が亡くなると、父も「魂が少しずつ目減りしてあちら側へこぼれて行く」ようだったと振り返る。9カ月後、知の巨人は愛猫の後を追うように逝った。
 エッセーの雑誌連載中、猫の世話に両親の介護が加わり、多忙を極めた。「介護でも猫の世話でも、嫌なのは、手出しをしすぎること。最低限のことしかやらないから、続いたんでしょう」。からりとした愛情で、愛する猫や両親を見送ってきた。
 「猫は自由にふらりと出かけていく。その先で事故に遭うかも知れないけど、後悔はしないという覚悟で見送る。介護もそれと同じです」(板垣麻衣子)

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