宮本輝が新刊「満月の道」 「流転の海」シリーズ第7部

2014年07月01日

「こんなに長い小説をたくさんの読者が待ち続けてくれている。感謝の気持ちでいっぱい」=堀内義晃撮影

 書き始めたときは、34歳だった。今年67歳になった作家、宮本輝の新刊「満月の道」(新潮社)は、9部で完結する大長編「流転の海」シリーズの第7部。30年以上の時を超えて紡がれてきた物語はいよいよ、結末を見据える段階にさしかかった。

 主人公の松坂熊吾(まつざかくまご)は、宮本の父がモデル。闇市が並ぶ敗戦後の大阪で物語は始まり、ときに愛媛や富山に舞台を移しながら、激動の時代を生きる男のがむしゃらな半生を描いてきた。
 「34歳の若造が50歳の男を書くのは難しい」。第1部を書いたときにそう痛感し、早く主人公の年齢に近付きたいと願ったという。今作の執筆中、とうとう熊吾の年齢に追いつき、追い越した。
 「同世代になってみると、60代の男というのはまだまだ生身の男だった」。今作の熊吾は再会した女性に心を奪われ、仕事では信頼する部下に手ひどく裏切られて、物語の行く手に暗雲が漂う。「9部で完結するなら、8部は最も激しい展開になる。7部はそれに向けて、さまざまな種をまく段階になった」
 第7部は1960年代初め、東京五輪を前にして好況に沸く大阪が舞台。集団就職の列車が都市に向かい、幹線道路を貨物トラックが行き交う。作中では熊吾や妻の房江(ふさえ)、宮本自身にあたる息子の伸仁(のぶひと)だけでなく、車の修理工場や大衆食堂で働く若者の姿が随所に描かれる。
 「この小説は親子3人の話のように見えるけれど、3人を取り巻く大阪の市井の人たちの物語でもある。特に親元を離れて集団就職の列車に乗り、あの時代の日本を支えた若者たちには、8部以降でもきちんと光を当てたい」
 第8部「長流の畔(ほとり)」は、すでに文芸誌「新潮」での連載が始まっている。「ゴールが視野に入って、最後の場面が頭の中でちらちら動き始めているんです」
 第1部のあとがきに、物語の最後の1行は「震える手でしたためることになる」と書いた。今は「水がさらさら流れて静かに消えていくような結末にしたい。ナイアガラの滝が音をたてて落ちるような終わりじゃなくて」と言う。
 「長い間書いてきて、そういう力の抜き方が身についたんじゃないかな」(柏崎歓)

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