バブル後の「歴史」語る2冊 清武英利さん・佐々木実さん

2014年08月26日

清武英利さん

佐々木実さん

 日本経済に深い傷痕を残したバブル崩壊と、それに続く「構造改革」の時代を描いた二つの作品に、今年の講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞が贈られた。前者の『しんがり 山一證券 最後の12人』(清武英利著、講談社)は自主廃業に追い込まれた真相を最後まで調査した社員12人を、後者の『市場と権力 「改革」に憑(つ)かれた経済学者の肖像』(佐々木実著、同)は小泉政権下で構造改革を推し進めた竹中平蔵氏を追い、昨年の新潮ドキュメント賞も受賞している。2作をあわせ読むと、「歴史」になりつつある、この時代の実像が生々しくよみがえってくる。

■「同調ないと排除」の現実 清武英利『しんがり 山一證券 最後の12人』 講談社ノンフィクション賞
 1997年11月22日、山一証券の社員は日経新聞朝刊で自分の会社が「自主廃業」になることを知る。同僚が転職先を求めて去っていくなか、真相究明と清算業務を続けたのが、業務監理本部を中心とする12人だ。

 彼らを追った元読売新聞記者の清武は「2011年暮れにひとりのジャーナリストに戻ったとき、会社組織の中にあってトップランナーではなく、後ろの列にいて見返りや称賛を求めることなく生きた人を書きたいと思った」。

 業務監理本部は社内の不適正行為を防止・是正する「司法部門」だが、証券会社にあっては「場末」と呼ばれ、「営業ができないと烙印(らくいん)を押された社員」の集団とみなされていた。そんな彼らが破綻(はたん)原因の究明にあたる。原因は多岐にわたり、調査も困難を極めたが、関係者への聴取を積み重ね、バブル期から隠蔽(いんぺい)されてきた簿外債務2600億円の真相に迫る。だれが作り、隠蔽してきたのか。

 「最初に不正にかかわった人が昇進して、部下に指示をする。その部下が昇進して次々に『背信の階段』を上っていくので関与者は多く、みんなが共犯者となる」。不正に声を上げると「同調しない人間」として排除され、「イエスマン」が再生される。

 「声を上げた人がいるはずだと探したら、確かにいた。しかし、同調しない人間はつぶされる。それはどこでも起こりうることだ」

 最後に作成した克明な報告書を、清武は「魂の報告書」と呼んだ。「12人は貧乏くじを引いたはずなのに愚痴を言うこともなく、悔いのない人生だと言っているのがとても印象深かった。志操の高い人に出会い、自分自身が救われる思いだった」

 「バブルの闇は深い。私はたまたま懐中電灯で照らして歩いたところを書いたが、大蔵省の関与など、まだまだ謎は多く、繰り返しこの時代を切り取って解明していくことが必要だ」

 ■竹中氏が果たした役割は 佐々木実『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』 大宅壮一ノンフィクション賞
 小泉政権下で経済財政、金融、郵政民営化、総務の各大臣として「『構造改革』の司令塔役」を果たした竹中平蔵氏は、佐々木が月刊「現代」(2005年12月~06年2月号)に本書の元になる「竹中平蔵 仮面の野望」を書き始めたころは現職大臣だった。

 「当時、嵐のようなスピードで変化していく中で、改革者たちは『これで間違いないんだ』という顔をして先導していった。その背景や要因などわからないことが多かったが、時を経て、あの時代をドキュメントであると同時に歴史としてとらえたいと思った」。「現代」廃刊後も書き継いだものを大幅に修正・加筆した。

 バブル崩壊後、97年に山一証券などが破綻した金融危機。大蔵省の接待汚職などで霞が関が地盤沈下していくのと入れ替わるように、政権中枢へと接近していく竹中氏。評伝のようにして政治の表舞台に登場してくる過程を描くが、あくまでも書きたかったのは「あの時代」とそこで果たした「竹中氏の役割」だ。なかでも、02年9月30日の金融担当大臣就任から約1カ月後に発表される「金融再生プログラム」(通称「竹中プラン」)が巻き起こした金融界パニックと、03年5月のりそな銀行破綻を描いた第6章「スケープゴート」は圧巻だ。

 「最初から『破綻ありき』で、その目的を達成するために会計監査のルールまで変えた。なぜそこまでしたのかは今もわからない」
 その過程で一人の公認会計士が自殺した真相にも迫っている。

 「竹中さんは、何が時代を動かしているのか、この場面で何が大事なのかをとらえるのに敏感だったので、長くその位置にいられたのだと思う。新自由主義とか市場原理主義と呼ぶには留保がいるかもしれないが、彼に象徴される時代は、今後もいろんな角度から検証されるべきだ」

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