「異質な他者」生む、犯罪報道の危うさ 早見和真が社会派ミステリー

2014年10月21日

早見和真さん

 映画「ひゃくはち」「ぼくたちの家族」の原作で知られる早見和真(37)が、犯罪報道の危うさに斬り込んだ社会派ミステリー『イノセント・デイズ』(新潮社)を出した。ページを繰る度に「正義」とされるものの土台が崩れていく思いがする。

 確定死刑囚の田中幸乃は、メディアから「整形シンデレラ」と呼ばれ、半生をこのように伝えられていた。

 ホステスの私生児として生まれ、養父から虐待を受けて育ち、中学時代には強盗事件を起こして児童自立支援施設に入所。恋人から振られたことをきっかけにストーカー化し、放火によって元恋人の妻と子ども2人の計3人の命を奪った――。

 しかし幸乃の本当の生い立ちを知る者たちの視点で、その実像が徐々に明らかになっていく。

 「テレビに出てきた被告の顔写真が悪者に見えてしまうこと、あるじゃないですか。僕自身も何の先入観なくニュースに触れることはできない」

 早見自身、かつては新聞記者を志していて、朝日新聞社に就職が内定していた。しかし、大学の卒業単位を取り損ねて留年。自暴自棄な生活を送っていたとき、知り合いの編集者に小説を勧められた。大学時代は、雑誌ライターとして実績も積んでいた。

 高校球児としての経験を生かし、名門野球部の補欠部員を活写した小説『ひゃくはち』でデビュー。7作目となる本作で、ミステリーに初挑戦した。

 物語の終盤、幸乃の幼なじみたちが救世主として現れる。読み手は、自然と「ある期待」を抱くかもしれない。しかし、その結末が照らし出すのは、容疑者や被告を「異質な他者」に仕立て上げ、無慈悲に葬り去っている「法治国家」の暗部だ。

 この6年の作家生活を振り返ると、「焦りしかなかった」という。「ずっと書いていいという保証がもらえたら、きっと癒やされる。でも、癒やされてはいけないのかもしれません」

関連記事

ページトップへ戻る