新人賞候補、注目の2氏 木村友祐・戌井昭人

2014年10月28日

木村友祐さん

戌井昭人さん

 2009年にデビューし、三島賞候補になった「イサの氾濫(はんらん)」で震災後文学の可能性を開いた木村友祐(44)。08年のデビュー以来、芥川賞候補に何度もあがってきた戌井昭人(いぬいあきと)(43)。パッとしないが、どこか見逃せない魅力のある人物を描いてきた注目の2人が、相次いで新刊を出した。ともに野間文芸新人賞候補にもなっている。

 ■リアルな震災後文学 木村友祐「聖地Cs」
 格差や過重労働など現代社会の問題を取り上げてきた作家、木村友祐。新刊『聖地Cs』(新潮社)は、福島県の警戒区域内にある牧場が舞台だ。命をどう生かすのか――。震災後文学に、豪速球が放たれた。
 故郷の青森県八戸市は東日本大震災で津波の被害を受けたが、親戚や知人で亡くなった人はいなかった。しかも、自分は東京在住。「被災者も原発事故も大きすぎるテーマ。及び腰だった」と話す木村を変えたのは、一本の映画だった。
 福島第一原発周辺で被災した動物と人間のドキュメンタリー「犬と猫と人間と2」。取り残された牛舎に1頭が生き残っていた。仲間の死骸のそばで汚物に埋まりながら。そのうつろな目を見たとき、「命をどのように扱っているか。動物を通して人間社会の形が見えてくる感触があった」。
 「聖地Cs」のCsはセシウムの元素記号だ。主人公は33歳の女性。人材派遣会社にいたが過重労働の軽減を呼びかけて孤立し、辞めた。夫は外でのストレスを彼女への暴言で発散する。やがて彼女はSNSで警戒区域内の牧場「希望の砦(とりで)」のことを知り、ボランティアに参加する。えさやり作業などで筋肉痛になりながら自問する。被曝(ひばく)した牛は「資源」ではないから殺処分しなければならないのか? では、「人材」や「人的資源」という言葉の根底にある認識は?
 モデルにした牧場は、映画に登場する「希望の牧場・ふくしま」。国が殺処分を命じた牛約300頭の世話をしている。木村自身もボランティアをし、「家畜の役目を果たさなくても、生き物として助けようとする人たちがいる。そのことに希望を感じた」。
 表題作のほかに短編「猫の香箱を死守する党」も収録する。主人公は、45歳の高層ビルの貨物エレベーター係。猫好きの彼は、〈猫が苦しむ社会は、ヒトも苦しむ〉と考えている。「猫」とは、すべての「力を持たぬ者」だ。木村も、大学卒業後、配送業や窓ふきなど職を転々とした。「力を持たぬ者」の一人として発信する。
 「時局的なネタに近づくと文学性を損なうとわかっていても、社会への不安があり、気持ちがざわざわして書かざるを得なかった」
 イデオロギーや主義主張のために文学を犠牲にしたくないと話す。その上で、「政治家の発言を聞いていると、言葉ってここまで軽く扱われるのかとビックリする。小説は言葉の重みを保って、それに対抗していかないといけない。社会の異変をかぎ取る役割でありたいし、そうであるべきだ」。まっすぐなまなざしで語った。
 (編集委員・吉村千彰)

 ■放浪精神に支えられ 戌井昭人「どろにやいと」
 父からお灸(きゅう)の行商人を継いだ元ボクサーの奇妙な放浪譚(たん)を描いた戌井昭人の『どろにやいと』(講談社)が出版された。今年度上半期の芥川賞で5度目の候補になったこの中編は、いかがわしさとおかしみが同居した作品だ。
 主人公は、父が開発した「万病に効く」というお灸を売ろうと、顧客名簿を頼りに日本海沿いの山村に出かける。だが、村人や土砂崩れに足止めされたり、地元の女に幻惑されたりするうちに、魔境のような集落に閉じ込められてしまう。
 「やいと」は関西弁でお灸。泥にお灸を据えても効果がないことから、題名「どろにやいと」は「無駄なこと」を意味する。「僕自身、無駄なことばかりで遠回りの人生でございます」と戌井。主人公のとりとめもないエピソードを積み重ね、日常と隣り合わせの「異界」を浮かび上がらせた。
 元々は演劇畑。祖父は文学座代表を務めた演出家の戌井市郎で、自らもアングラ劇団「鉄割アルバトロスケット」を主宰する。30代半ばで小説の世界に足を踏み入れた。「生きる喜びを与えられ、生まれ直した」。今年は、短編「すっぽん心中」で川端康成文学賞も受けた。
 毎朝、執筆前に近所を散歩するのが日課。時折、ふらりと遠出をすることもある。「歩いていると変な地形やおかしな建物を見つけて。そういうのが好きなんです」。作品世界は、そんなからりとした「放浪精神」に支えられている。
 尊敬する作家は、深沢七郎。土着的な民話・伝承を奇妙な味わいのある語りで小説に昇華した異端児だ。「人間のどん底を描きながらどこか上品さを失わない。そういうところに生理的にひかれる」。先人を継ぎ、フォークロアの地平から小説の可能性を切りひらく。
 (板垣麻衣子)

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