生への希望と否定と 文芸賞に2作品 李龍徳と金子薫

2014年11月18日

「死にたくなったら電話して」で文芸賞を受賞した李龍徳さん

「アルタッドに捧ぐ」で文芸賞を受賞した金子薫さん

 文芸賞(河出書房新社主催)は、山田詠美、綿矢りさら個性豊かな作家をデビューさせてきた新人賞だ。今年は対照的な2作に贈られた。悪意と性が織りなす心中物語、李龍徳(イヨンドク)(37)の「死にたくなったら電話して」と、生き物への愛と希望を感じさせる金子薫(24)の「アルタッドに捧ぐ」。本は21日、各千円(来年2月まで)で発売される。

■絶望のなかの共感、届けたい 李龍徳「死にたくなったら電話して」
 この小説に生やさしい希望はない。李龍徳の「死にたくなったら電話して」。人の心の負の部分をひたすら増幅し、容赦なく読者に突きつける。

 イケメン浪人生の徳山が、初美という美女と大阪のキャバクラで出会う場面から、物語は始まる。初美がベッドで冗舌に語る虐殺や拷問といった人間社会の暗部に溺れるうち、徳山はいつしか、生への執着を見失っていく。

 負のエネルギーを研ぎ澄ませ、人間性を理詰めで否定するような初美の言葉の数々が、恐ろしくも小気味よい。そして徳山を一歩また一歩と追い詰める、挫折の連鎖。「希望ばかりの物語にうんざりしている読者は多いはず。徹底的な否定を見せようと思った」

 埼玉県生まれの在日韓国人3世。早稲田大を卒業後、韓国留学を経て、派遣社員として働くなどしながら書き続けてきた。現在は大阪府在住。受賞作は「お初」と「徳兵衛」が大阪で情死する近松門左衛門の「曽根崎心中」を下敷きにした。

 李は「世間や人生に、生きにくさを感じてきた」と言う。「自分の経験に照らせば、死にたいようなつらい夜に、希望のある明るい話なんか読みたくない。暗い気持ちに寄り添うほうが届くはず」

 「死にたくなったら電話して」というタイトルは、物語の序盤で初美が徳山を誘う文句。だが同時に、つらい夜を過ごす人に寄り添おうという作者の思いにも重なるのだろう。
 「人生や世の中を見つめる小説を書き続けたい。雰囲気だけじゃなく、行き着く先のある物語を」。やさしい希望の代わりに、絶望のなかの共感を届ける物語があると示して、作家の第一歩を踏み出した。
 (柏崎歓)

 ■「なぜ生きる」問いを重ねる 金子薫「アルタッドに捧ぐ」
 「なぜ僕は生きていかなければいけないの?」。作中に時折顔を出す根源的な問い。答えはない。「問いを重ねていくことが人生」だと金子薫は言う。

 「アルタッドに捧ぐ」の主人公は作家志望の青年。大学院入試に落ち、小説も書きあげられない。中ぶらりんな彼が、トカゲのアルタッドを育て始める。コーンを好んで食べ、サボテンに登って繁殖の予行をする姿がキュートで、愛さずにはいられない。終盤、アルタッドの絵を描いていた彼は、突然歓喜を感じ、「問いと共に燃え上がるような感覚」を味わう。トカゲへの愛と生への優しさに満ちた小説だ。

 「悩んだりうちひしがれたりしながら、解決はないが、何かをみたんだ、という希望がある。クラシックな青春小説。自分の分身が出るのはこれで最後。記念碑的作品です」

 1990年生まれ。慶応大学大学院でフランス文学を専攻する。子どもの頃は、トカゲも飼っていた。

 「ロックを聴いたらすぐにギターを買って弾こうというタイプ。14歳で小説を読み始めたとき、すでに言葉を使って書くつもりはあったと思う」

 バンドを始めたのも、小説を本格的に読み始めたのも高校時代。ボードレールやランボーなどフランスの古典を中心に読んだ。「言葉の響きや文章の力にしびれた。幻想の強さの勝負じゃないかな、人と人って」

 書くこともまた、問いを積み重ねること。「前の作品を次の作品で葬り続け、1作ごとに進歩や跳躍があればいいな」。ただ、書き始めると雑念は消える。「気負いも不安もなく、空っぽでハイ。僕は入れ物になりたい。シャーマンのような状態が理想です」
 (編集委員・吉村千彰)

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