漂流日本に再生の萌芽 英ジャーナリスト出版本が話題

2014年11月18日

フィナンシャル・タイムズのデイヴィッド・ピリング・アジア編集長=麻生健撮影

 バブル崩壊以来、漂流しているかのような日本を、英紙ジャーナリストが論じた『日本―喪失と再起の物語』(早川書房、仲達志訳)が刊行された。東日本大震災を機に、過去にも大きな国難を乗り越えてきた歴史を持つ日本の姿を、英語圏に紹介した話題の書だ。筆者は英フィナンシャル・タイムズのデイヴィッド・ピリング・アジア編集長。その目に今の日本はどう映っているのか。

 ピリング編集長は、2002年から6年8カ月、東京支局長を務めた。原題「BENDING ADVERSITY」はことわざの「災いを転じて福となす」から取られ、黒船来航(1853年)以来、国家的危機を乗り越えてきた歴史に着目した。「明治維新による近代化や敗戦後の復興などの歴史をみることで、大震災や近年の中国の台頭に日本がどのように対していくのかを検証したかった」。とくに中国の台頭は「過去百年間で世界の勢力バランスにおける最大の変化」とみる。

 中国と日本は現在、世界で2位と3位の経済大国。「両国が同時に強国だったことは歴史上なかった。地理的にも文化的にも近い2国が大国であるという状況がインパクトをもたらさないはずはない」

 安倍政権が打ち出すアベノミクスも、「中国の脅威と東日本大震災の申し子」というのがピリング編集長の見方だ。

 「安倍晋三首相は最初の政権退陣後、日本の経済的衰退と中国の台頭を見て、強い危機感を持ったのだろう。今回の政権では改憲などより、経済問題を優先させた。金融政策は無用の長物でないことを証明したが、成功するにはインフレと賃金上昇が実現されなければならない」

 他方、旧来の雇用システムの崩壊によって正規雇用と非正規雇用に二分化される若者の現状には憂慮を示す。本書でも、採用通知が一通も届かなかった元女子学生の「正社員の職を得るということは、まともな社会的地位があること」「(正社員の職が)ないことは社会的地位の欠如を意味する」との言葉を紹介している。

 「バブル崩壊後の日本は、システムの中に雇用されている人を守り、外にいる人を閉め出すという解決策を採ったため大量の非正規雇用者が生まれた。雇用問題が解決しているようにみえる裏にはこうした秘密が隠されている。若者が経済的な調整弁となって犠牲にされた面がある」

 本書でたびたび登場するのが、作家の村上春樹だ。村上は、戦後日本の大きな転換点として阪神大震災と地下鉄サリン事件のあった1995年を挙げ、「私たちはシステムに何か問題があると考えるようになった」と語っている。

 ピリング編集長は言う。「終身雇用制度のような古い制度による日本経済のシステムが崩壊しつつあり、若い世代は一生を企業に従属しなくてもよくなった。いろんな可能性を試すことができ、上の世代より満足度の高い人生を送ることができるかもしれないが、労働市場の二分化で弱体化した人々からは需要が生まれにくく、経済にとっても人材活用の面でも好ましくない」

 漂流する日本は、どこに向かうのか。「過去5年間を見るだけでも自民党政権を破棄して民主党を選び、その3年後には自民党を政権に戻したように予測は難しい」。しかし、日本語版へのあとがきにはこう書いた。

 「日本が過去二〇年間に救いようのない衰退の道をたどったという説には誇張された面がある。(略)そこには間違いなく、再生の萌芽(ほうが)が見られたからだ」(都築和人)

関連記事

ページトップへ戻る