中国の歴史、「人」でひもとく 井波律子「中国人物伝」

2014年11月25日

「有名でもそうでなくても、人の人生は全て面白い」と話す井波律子さん=戸村登撮影

 中国文学者の井波律子・国際日本文化研究センター名誉教授が、「中国人物伝」(岩波書店、全4巻)を刊行中だ。春秋戦国時代以降の様々な分野の人の約100の人物伝を時代順に並べ、中国の歴史をたどることができる内容だ。

 登場するのは「三国志」で知られる曹操(そうそう)、劉備(りゅうび)や、中国共産党指導者の毛沢東(もうたくとう)ら、日本でもおなじみの人物のほか、隠者、講釈師まで多岐にわたる。11月上旬に出た第3巻は、隋王朝(6~7世紀)から、モンゴル民族による元王朝(13~14世紀)の人物を取り上げた。

 「大きく揺れ動きながら姿を変えてきた中国で、精いっぱい生きた人の軌跡を書くことで、長い歴史を浮かび上がらせたい」

 ただ一人の女帝になった則天武后(そくてんぶこう)の、すさまじい権力欲。玄宗(げんそう)皇帝と楊貴妃(よう・き・ひ)のもとで道化を演じつつ軍事力を強化した節度使、安禄山(あんろくざん)のしたたかさ。華やかで血なまぐさい唐代が終わると、チンギス・ハンやフビライ・ハンが登場。それを機に知識人が戯曲や語り物を手がけるようになり、大衆文学の傑作が生まれた。

 芸術、文化が花開いた唐代には、華麗な詩が多くつくられた。第3巻には有名な詩人の話も多い。官吏登用試験の科挙を受験できなかった李白(りはく)の放浪生活。戦乱に巻き込まれながら、自然へのやさしいまなざしを失わなかった杜甫(とほ)。「天才肌の李白の詩は、読むとのびのびした気持ちになる。杜甫の詩は緻密(ち・みつ)。2人の人生を知れば、詩をより深く味わうことができる」

 好きな文学者の一人が、北宋の蘇東坡(そとうば)だという。「左遷されても逆境に負けず、ひもじい時は口をぱくぱくさせる亀をまねて、空腹をまぎらわせました」。書、画、すずり、石の熱狂的な収集家だった書家の米フツ(べいふつ)などの奇人変人ぶりも面白い。

 「世の中には様々な個性を持つ人がいて、一人一人の人生が面白くかけがえがない。幸福も不幸もずっと続くわけではなく、誰も思い通りには生きられない。人が時代をつくり、時代が人をつくることが、100の物語からわかります」
(田中京子)

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