自由求め、悪事もいとわず 桐野夏生「夜また夜の深い夜」

2014年12月02日

「常に『置いて行かれる人』の側に立っていたい」と話す桐野夏生

 追い込まれていく女性の視点から日本社会の暗部をえぐってきた作家、桐野夏生が新作『夜また夜の深い夜』(幻冬舎)を刊行した。日本人の少女が、イタリア・ナポリのスラム街で苦境を生き抜く物語。珍しく海外が舞台だが、時代閉塞(へいそく)の現状を鋭く突く姿勢は変わらない。

 主人公は、国籍も自分の本名も知らない18歳の「マイコ」。ナポリに来る前は「ユキ」、その前は「キヨ」と名乗っていた。世界中を転々とし、整形を繰り返す母の元で学校にも通わせてもらえずに育ってきた。物語は、そんな出自不明のマイコが、雑誌で見かけた革命家の娘・七海に長い手紙をしたためるところから始まる。

 数年前、イタリアのブックフェアに招かれて、ナポリを訪れたのが執筆のきっかけになった。

 「いろんな人種が住んでいる雑然とした港町で、その下には洞穴のような地下街が広がってるんです。ここに国籍のない女の子がひっそり暮らしていてもおかしくないんじゃないかって想像が膨らんで」

 劣悪な環境で暮らすマイコは、謎の日本人青年が経営する漫画喫茶でマンガと出会う。言葉を知ることで自我が芽生え、ついには母と決裂。戦争や虐殺など過酷な環境を切り抜けてきたリベリア出身のエリス、旧ソ連出身のアナという同世代の友人を得て、次第に悪事もいとわず突き進んでいく。

 平凡な主婦が死体遺棄に手を染める『OUT』、娘の失踪を機に1人の女性が人生を狂わせていく直木賞受賞作『柔らかな頬』、東電女性社員殺害事件を題材にした『グロテスク』――。濃密な筆運びで、現代女性の切迫感を描いてきた桐野。趣向は異なるが、本作も「すさんできた」と感じる日本社会を洞察している。

 「今、日本の若い女性たちが逃れようとしても逃れられない構造的な貧困に苦しんでいるのを感じています。例えば、どれだけ働いても正社員になれない」

 知識も技術も何も身につけていなかったマイコは、危険を顧みない行動力で、次第に自由を獲得していく。「自由というのはどこか反社会的なのかもしれない」と桐野は言う。

 「夜」という言葉を畳みかける題名は、ファシズムと戦ったスペインの詩人ロルカの詩からとった。

 デビュー30年。今や直木賞の選考委員も務める重鎮だ。だが、執筆のパッションが衰えることはない。

 「先進国でこれほど女性の地位が低い国も珍しい。就業機会を奪われて、頭から押しつけられている。小説を書く動機は、この国の女性であることです」(板垣麻衣子)

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