異なる個性、溶けあう 阿部和重・伊坂幸太郎、共作「キャプテンサンダーボルト」

2014年12月02日

阿部和重さん

 阿部和重と伊坂幸太郎。二人の作家の発想が溶けあい、一つの作品に結実した。共作『キャプテンサンダーボルト』(文芸春秋)は、文章までお互いが手を入れた。伏線と謀略と遊び心が張りめぐらされた作品には、東日本大震災をまたぐ創作期間の「時代の記録」が無意識に刻まれた。

 阿部の『ピストルズ』に伊坂が推薦文を寄せたことから、2人は出会う。2011年3月初旬。「村上春樹に負けないくらい出版界を盛り上げたい」という話は、いつの間にか合作の企画へと進んだ。その日の夜にはタイトルまで決まっていた。

 『キャプテンサンダーボルト』は、少年野球のチームメートだった2人の男が主人公の「バディ(相棒)もの」だ。ちょっとした手違いから謎の集団との取引に巻き込まれ、公開中止になった映画や、宮城・山形県境の蔵王に墜落したB29の「秘密」を追う。

 書いた分量はほぼ半分ずつ。冒頭は伊坂が担った。何も起きない場面の会話に伏線を混ぜ込み、物語を広げる。持っている技はすべて使おう、と。それに感嘆した阿部。乱闘場面の文章表現に、今度は伊坂がうなる。刺激が執筆のハードルを上げた。

 2人は関心の向く先も似ていた。英国のダイアナ元皇太子妃の死を扱う小説を、たまたま同時期に書いていたこともある。ただ、ともに10年以上のキャリアがあり、文体も内容も全く異なる。その個性を融合させたのが今回の共作だ。

 例えば、伊坂はある場面に「ダンプが多く通る」とだけ書いた。阿部がそこに「砕石場が近くにあるから」と加えた。

 <伊坂> ようするに、阿部さんが奥行きを作ってくれていたんですよ。全編そういう感じでした。正直、本当にこの物語が面白くて仕方がなかったので、作品を良くすることだけを考えていました。

 <阿部> 不思議な体験ですね。途中まではどちらが書いたか見えているんですが、改稿を進めることで、作品世界しか見えなくて。

 執筆前、一つだけ決めたことがある。「東日本大震災に言及しないこと」だ。だが東北が舞台の物語は、復興をさりげなく応援する物語にも読める。

 ある重要な場面に、選択を誤った主人公がめげずにやり直す描写がある。阿部と伊坂が共に敬愛する大江健三郎も、震災後に刊行した本に「私は生き直すことができない。しかし/私らは生き直すことができる」と震災前に書いた詩を引用している。

 <阿部> この時代に自分たちがどうしたいのか。(今回の作品には)震災直後の雰囲気が無意識に現れているんだと思います。「時代の記録」という気もします。(高津祐典)

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