瀬戸内寂聴が新刊 92歳、自らの最期見つめて

2014年12月09日

瀬戸内寂聴=今年1月、京都市右京区、堀内義晃撮影

 体調不良で今年に入って二度入院し、現在は京都の自宅で療養している作家で僧侶の瀬戸内寂聴(92)が、自身の人生の終着点を見つめる新刊『死に支度』(講談社)を出した。衝撃的なタイトルの長編小説に託した思いを、電話で聞いた。

 「90歳を機に、どんな死を迎えるべきか考えようと書き始めた」という物語は、91歳の誕生日を目前にした作家に、長年付き添った女性スタッフたちが「私たちを養うために、先生は仕事を減らせない」と、一番若い20代の女性だけを残して退職を申し出る場面から始まる。
 「長編小説」と銘打ってはいるものの、主人公は京都の「寂庵(じゃくあん)」に住む女性作家で僧侶。読者は作者と重ねて読まずにはいられない。物語は90代の作家と、身辺の世話をする20代の女性スタッフとの日常に、回想を差し挟みながら進んでいく。
 父や母や姉、作家の連城三紀彦や文芸評論家の秋山駿。近しい人たちの人生と死を一人ひとり振り返り、僧として考える死と作家として考える死とのはざまで揺れながら、主人公は自身の最期のあり方を見つめていく。
 「長生きするということは、たくさんの大切な人と死に別れること。自分の死を見つめるために自分の今を書き、大切な人たちのことを振り返ったんです」
 亡き人への思いの深さの一方、孫ほども年の離れた女性と過ごす日々の描写は軽やかで明るい。「なう」を語尾につけるのが若者の流行と聞けば「コーヒーがほしいなう」「オッケーなう」とふざけ合い、合コンの日に身につけていく下着について、大まじめに議論する。
 「若い子と暮らしてると、毎日があの通りの明るさなんですよ。でも、今だったらあんなふうには書けないかもしれない」
 『死に支度』は昨年夏から文芸誌に1年間連載したが、今年7月号に載せる最終回を書き上げた直後、背骨の圧迫骨折で入院。いったん退院したものの、8月から9月にかけて再び入院した。今はリハビリをしながら主に横になって過ごし、執筆できない状況が続いているという。
 体調の話になると、せきを切ったように言葉があふれ出した。「身体の痛みよりも、寝たきりで書けない自分が許せなくて、その憂鬱(ゆううつ)さと戦う毎日。100歳まで生きてねって皆さん言ってくださるけど、ものを書けない寂聴なんて、生きてたってしょうがない」
 『死に支度』は最後の連載のつもりで執筆を始め、書いている間に自らの最期に向けて身辺の整理を進めるつもりだったという。物語の終わりにつづる、いつ死が訪れてもおかしくない毎日をただひたすら慈しむような、やさしくしなやかな境地が胸を打つ。
 「今は体がこんな状態だから、もう書けないかもしれないと思うこともある」。92歳の作家は、電話の向こうで言葉を切った。
 「でもまだ、『死に支度』を最後の小説にはしたくない。私がそう言ったと、必ず記事に書いてね」
 (柏崎歓)

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