「自身のいらだち反映」 佐藤正午さん5年ぶり長編小説

2014年12月16日

あまりメディアに顔を出さない佐藤正午。「苦手? いや。遠いから誰も来ないだけです」=長崎県佐世保市

 長崎県佐世保市在住の小説家、佐藤正午(59)が5年ぶりとなる長編『鳩の撃退法』(小学館)を11月に出した。女にだらしない小説家を主人公にした上下巻計千ページ近い大作だが、巧みな筋と表現で一気に読ませる。「だって、書いている方が飽きてないから」。作品を文芸誌「きらら」に連載した3年間を「幸せだった」と振り返る。
 40代の小説家・津田伸一は、人妻との不倫など数々の不祥事で発表の場を失った。佐世保を思わせる街に流れ着き、デリヘル(派遣型風俗店)の運転手をしている。ある夜、ドーナツ店で出会った男と、お互いが持っていた本をきっかけに言葉を交わす。翌日、男は妻と4歳の娘と共に行方不明になる。
 本作は、この事件をきっかけに再び小説を書き始めた津田の作品という体裁をとり、大量の札束、闇社会の影、東京への逃亡、編集者との出会いを経て、事件の核心に近づく奮闘を描く。
 津田は2007年に出した小説『5』の登場人物だった。「必ず冷めるもののことをスープと呼び愛と呼ぶ」が持論。なのに危機は女に頼って切り抜ける。創作態度がどこか投げやりなのは、「僕自身のいらだちを反映していたのかもしれない」と佐藤は言う。
 1983年に『永遠の1/2』でデビューして以来、佐世保で書き続ける。「生まれ故郷だからということだけ」。恋愛小説からミステリーまで幅広く手がけたが、いくら書いてもきちんと読まれていると思えず徒労感が募り、『5』の脱稿後しばらくして、小説が書けなくなった。「軽い鬱(うつ)。半年くらい休んだ」。わかってくれる人だけ読んでくれればいいと開き直ると、気持ちが楽になった。
 そんな変化は、津田のキャラクターにも投影されている。新作での津田はどこか力が抜け、若い風俗嬢らとのやりとりもユーモラスだ。友人の古書店主から、ひとに読んでもらえない小説を書く意味を問われた津田の答えが印象的だ。
 「私にとって歌は、呼吸するのとおなじですと言うひとがいるよな? あれとおなじだ。歌うのに意味なんかない。歌わずにいられないんだ」
 「小説巧者」と評される佐藤。自身は小説家の仕事を「文芸」だと考える。話芸と同じ意味での文芸、文で紡がれる芸。「おもしろくて当たり前なんです」(星賀亨弘)

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