西加奈子「サラバ!」 10年間の全部ぶつけた

2015年01月07日

西加奈子さん=大阪市北区、滝沢美穂子撮影

 上下巻700ページ。その長さが、長く感じられない。作家の西加奈子さんの新刊「サラバ!」(小学館)は、作家生活10年の節目に「今までやってきたことを全部ぶつけた」という力作。生きること、そして信じることとは何か、体当たりで問うような気迫がみなぎる。
 西さんと同じ1977年5月生まれの、歩(あゆむ)という名の男の子が主人公。イランの首都テヘランで生まれる設定も、西さんと同じ。そんな男の子の誕生から物語は始まり、今の西さんと同年代にあたる30代の男性に成長するまでの半生をつづっていく。
 「経歴は自分と重なるけれど、物語はまったくのフィクション」と西さん。物語は歩と貴子という姉、そして作品の途中で離婚してしまう両親を中心に紡がれていく。
 歩は小学生時代の半分以上をエジプトで過ごし、そこでヤコブという少年と出会う。書名の「サラバ!」とは言葉の通じない二人を結ぶ合言葉のようなあいさつだ。
 ヤコブが信じる少数派のコプト教(キリスト教の一派)、姉が傾倒する「サトラコヲモンサマ」という奇妙な神様、出家する父。ストーリーが進むにつれ、信仰の問題、ひいては生きることと信じることとの関係が、物語全体の重要なテーマとして浮かび上がってくる。
 ナイーブで器用で、いつも自分を客観的に見ている歩は、前作「舞台」の主人公の青年を連想させる。周囲とのあつれきを絶えず引き起こしながら我が道を行く姉の貴子には、「ふくわらい」の主人公の女性を重ねるファンも多いだろう。
 「世間で正しいとされているものを一から考え直そうっていう小説を、ずっと書いてきたつもり」。10年の節目に、今まで伝えようとしてきたことを全部出し切ろうという思いが、そんな登場人物の設定にもつながっているのかもしれない。
 物語の後半では阪神大震災や地下鉄サリン事件、アラブの春、東日本大震災など、日本と世界で現実に起こった出来事が描かれる。「まったくのフィクション」なのに、あえて自分と相似形を描く経歴の主人公を設定したのは、自身の歩みのなかで考えてきたことを存分にぶつけるために、最も自然な設定がそれだったからなのだろう。
 2005年刊行の代表作「さくら」も、やはり家族の物語だった。「さくらの西さんってずっと言われてきたけれど、これからはもしかして、サラバの西さんって言ってもらえるかもって」。まさに今、充実のまっただ中にいる。
 本体各1600円。
 (柏崎歓)
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 にし・かなこ 1977年、イラン・テヘランで生まれ、大阪で育つ。2004年「あおい」でデビュー。「通天閣」で織田作之助賞、「ふくわらい」で河合隼雄物語賞。他の著書に「きいろいゾウ」「円卓」など。

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