実力派、注目の「新人」 高橋弘希さん・青山文平さん

2015年02月03日

高橋弘希さん

青山文平さん

 若い世代が戦争と向き合った高橋弘希さん(35)の『指の骨』(新潮社)が刊行された。昨年の新潮新人賞受賞作だ。一方、近年、時代小説の分野に転向した青山文平さん(66)は『鬼はもとより』(徳間書店)で、このほど大藪春彦賞を受賞した。高橋さんは先の芥川賞、青山さんは直木賞の選考会でも高い評価を受けた。注目の「新人」2人に聞いた。

■若い世代が描く戦争 芥川賞候補「指の骨」・高橋弘希さん(35)
 新潮新人賞の選考委員から「小説を構成するもののすべての水準が、極めて高い」「戦争を知らない世代でも『戦争』を書ける。それは、この作品が証明した」など、高く評価された。芥川賞の選考では「魅力を感じたという選考委員がいる一方で、どうしても作品が書かれた動機が気になるという意見もあった」(小川洋子選考委員)という。
 戦争中の南方の野戦病院を主な舞台に、若い兵士たちがマラリアなどに苦しめられながら「日常にある死」を受け入れていく。戦闘場面はほとんどなく、食糧が尽き果て、敗走する無名の兵士たちの戦争と死の現実を描いた。
 「もともと書こうとしたのは大学生が主人公の元気な現代の小説だったが、書いているうちに戦争に近づいていった」。その理由については、「書いているうちにそうなった」と繰り返し、戦争をリアルに書くことの難しさも「わりとするする書けた」という。
 「するする書ける」のは中学・高校時代からだと言い、課題作文で市の賞をとったこともある。大学卒業後、予備校講師として国語を教えながら、ロックバンドで作詞作曲、ボーカル、ピアノを担当するが「音楽と文学を一緒にしたくない」と、この2年は執筆に専念した。今後のことは「小説と音楽は切り分けているので、考え中」。次回作についても「戦争とはちょっと違うが、書いているうちにどうなるかわからない」と話した。(都築和人)

■時代小説で読者応援 直木賞候補「鬼はもとより」・青山文平さん(66)
 江戸後期、財政窮乏に苦しむ小藩に雇われた脱藩浪人が、経営コンサルタントさながら経済改革を断行する姿を描いた『鬼はもとより』で、直木賞の初候補に。「これまでにないくらい白熱した」(林真理子選考委員)という選考会で、受賞作と最後まで競り合った。
 関ケ原から150年。戦はなく、武士が刀を抜く機会がなくなった太平の世で、存在理由を求めてもがく男たちに光を当てる。「『尊皇攘夷(そんのうじょうい)』や『下克上』のようなわかりやすいキーワードもないし、動きもない。停滞の時代だからこそ、人間が描ける」
 1948年、横浜市生まれ。経済系の出版社を経て、92年にライターへ転身。同年、43歳で初めて書いた純文学の小説「俺たちの水晶宮」で中央公論新人賞を受賞した。だが、「体力と精神力が続かなくなった」。10年で行き詰まった。
 4年前、「年金だけでは暮らせないから」と、生活手段と割り切って時代小説に転向。2011年に「白樫の樹の下で」で松本清張賞を受けた。
 「激動の時代というのはいわば『流れるプール』。ドボンと入れば誰でも動ける。プールが回っていない時代に考えて動ける人物こそが本物だと思う」
 経済はじり貧、進むべきビジョンがない今の日本も、江戸後期と同じ「プールが回っていない時代」だと感じる。自分の小説が、そんな現代に生きる読者への指南書になればと思う。(板垣麻衣子)

関連記事

ページトップへ戻る